研究課題/領域番号 |
24560800
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
関谷 隆夫 横浜国立大学, 工学研究院, 教授 (60211322)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 光物性 / 二酸化チタン / ドーピング / 光誘起永続物性 |
研究概要 |
異原子価元素であるアルミニウムやニオブを様々な濃度でドープしたアナターゼ型二酸化チタンの単結晶を化学輸送法により育成した。アルミニウムを不純物として含むアナターゼ単結晶については、酸素欠陥制御を施し、光照射ESR スペクトルを測定した。紫外光誘起ESRシグナルの角度依存性、液体ヘリウム温度~室温での光照射下での温度依存性、暗所での光誘起ESRシグナルの温度依存性について実験を行った。その結果、約100K以下で光誘起キャリアがAl近傍の酸素にトラップされること、光照射を止めても70K以下で永続化すること、光誘起ESRシグナルが観測されない40K以下においても光誘起キャリアのトラップが起こっていること、等の光誘起キャリアの温度依存性に関する知見をまとめ、公表するに至った。アルミニウムドープした単結晶でも同様に紫外光誘起ESRシグナルが観測されることが判っているので、類似点や相違点についての結果をまとめている。永続的にトラップされた光誘起キャリアの緩和については、試料温度の上昇による発光を捉えることに成功した。また、極低温では減衰時間の非常に長い蛍光の観測にも成功した。ニオブドープアナターゼ単結晶については、育成した直後の単結晶を用いて電気伝導度測定を行った。ニオブのドープ量が多くなるほど伝導度の大きさが大きくなった。育成直後の結晶を用いているので、酸素欠陥の影響を受けていると思われる。アニオンである窒素のドープについては、TiNを加えた育成原料を用いた化学輸送法を試みているが、現段階までは単結晶育成の成功に至っていない。温度勾配や、窒素の導入方法などを検討する必要がある。育成した単結晶をアンモニア気流中で熱処理することで、窒素を含むアナターゼ型二酸化チタンの単結晶が有する2.9eV付近の光吸収帯の増強を観測することができた。さらなる単結晶中の窒素の増量を計画している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概ね研究は順調であると考えている。24年度に計画していたアルミニウムやニオブ、窒素を異元素としてドープしたアナターゼ型二酸化チタンの単結晶の確保には目処が付いたと考えている。アルミニウムドープ単結晶については、光誘起ESRの測定を通じて、光誘起キャリアの熱的性質についての知見を得ている。25年度以降、ドープ量や照射する光強度とESRシグナルの強度の関係を明らかにする実験を行う。ニオブドープ単結晶については、ESR信号が観測できない等、以前の結果とは異なる測定結果を得ているので、この後新たな測定を計画する必要を感じている。電気伝導の測定に関しては、スパッタリングにより作成した金電極を介して測定に目処が立ったことで、25年度以降の酸素欠陥制御と電気伝導の関係を明らかにするための準備が整ったといえる。窒素ドープ単結晶については、アンモニア気流中での熱処理によりドープ量を増やすことには成功したと考えているが、2.9eVの光吸収帯の強度もドープ量と比例関係にあるとは断言できないので、ドープ量の評価方法を検討する必要に迫られている。24年度は全国的な液体ヘリウムの欠乏により、充分な低温での測定が行えなかった点では少し研究が遅れた感じは否めないが、測定には目処が立っているので、明らかな研究の遅れとは捉えていない。研究成果のアドバンテージの大きなアルミニウムやニオブドープ単結晶を中心に研究を進め、成果につなげたい。
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今後の研究の推進方策 |
概ね当初の計画に沿って研究を進める方針である。ドープ、非ドープ単結晶試料の育成については、ルチル型固溶体粉末を原料とする化学輸送法にて、継続して行う。アルミニウムドープアナターゼ型二酸化チタン単結晶では、アルミニウムのドープ量の評価、ESRシグナル強度とドープ量の関係などに興味が持たれる。光誘起永続的キャリアの緩和については、熱的刺激による発光緩和についての実験を行ってきたが、光学的刺激による緩和についての情報も得たいと考えている。さらに、アルミニウムドープ単結晶では、光誘起キャリアが永続化する現象が観測されているので、同じ3価となる不純物イオンをドープした単結晶での実験も興味深い。スカンジウムやガリウムなどの3価となる陽イオンをドープした単結晶育成を試み、単結晶が得られれば、紫外光照射ESR測定などに供したい。これまでにニオブドープ単結晶では育成直後に、窒素ドープ単結晶では、アンモニア気流中での非ドープ単結晶試料の熱処理による窒素ドープの際に酸素欠陥が導入されているという実験結果を得ているので、それぞれドープした元素によるキャリアの挙動を酸素欠陥生後と光吸収、ESRや電気伝導、ホール効果などの測定により明らかにする必要がある。その上で、紫外光照射下での同様の測定を行うことで紫外誘起キャリアの挙動を明らかにできると考えられる。特に電気的測定では、酸素欠陥制御により試料が高抵抗化することか予想されるので、試料と電極とのコンタクトが重要となり、電極材料の選択は重要になるので、当初の予定通り、25年度内に目処を付けたい。窒素ドープアナターゼ型二酸化チタン単結晶では、ドープ量の飛躍的向上が望まれており、新たなドープ方法を模索する必要があると感じている。 なお、結晶育成ならびに各種の測定実験には、横浜国大大学院工学府の学生を研究協力者として参加・協力してもらう。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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