固体中の正20面体スピンクラスターがどのような磁気秩序をつくるか、全く知られていない。本研究により、世界で初めて、正20面体スピンクラスター固体の磁気構造を決定することに成功した。具体的には、ごく最近低温で強磁性転移の報告された正20面体スピンクラスター固体の単結晶を電気炉中で育成し、単結晶中性子回折実験を行った。中性子回折実験に先立ち、マクロ磁化測定により決定したキュリー点上下で中性子回折測定を行い、磁気転移による散乱強度の増強を計測した。次いで、中性子回折2次元マッピングを行い、強磁性転移であることを確認した後、可能な限り多数の反射強度を測定し、常磁性状態における散乱強度を差し引くことで、磁気散乱強度成分のみを抽出した。 磁気構造解析は、正20面体スピンクラスター上の12個の磁気モーメントの向きを全てフィッティング・パラメータとして、回折データを最も良く再現する磁気構造モデルを最小二乗法により得た。その磁気構造は、正20面体上の各局在スピンが全部で3通りある<100>方向のいずれかを基本的に向いており、全体として<111>方向に磁化を出すという特異な磁気秩序を有していることが明らかとなった。このような磁気秩序は、<100>方向の異方性がスピン間の相互作用に比べて一定以上の大きさを有するときに、起こるものである。また本研究により、正20面体スピンクラスター固体は、新しい3次元イジング系として理解可能であることも示唆された。 本研究成果は、準結晶を含む固体中の正20面体スピンクラスターにおいて頻繁に観測されているスピングラスの謎の解明への途を切り拓くものと期待される。
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