研究課題/領域番号 |
24560813
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 独立行政法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
佐原 亮二 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, 研究員 (30323075)
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研究分担者 |
水関 博志 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (00271966)
ベロスルドフ ロディオン 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (10396517)
川添 良幸 東北大学, 学内共同利用施設等, 名誉教授 (30091672)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 水素貯蔵材料 / 第一原理計算 / 解離反応 / 電子励起状態 / 時間依存密度汎関数理論 / 全電子混合基底法 |
研究概要 |
本研究は、励起状態を考慮した時間依存密度汎関数理論(TDDFT) により、スピルオーバーを利用した水素貯蔵材 料の動的過程を扱い、水素分子の解離を含むその原理を詳細に解明する。本水素貯蔵機構を大きく3つの素過程に分け、各過程における電子状態の時間発展を解析することで、中心的役割を担う機構を明らかにする。担持金属クラスター種、サイズ、温度等の条件を変えることで、最適な担持金属クラスターを有する高濃度水素貯蔵材料を理論設計する。なおプログラムには独自開発の全電子混合基底法プログラムTOMBO を使用する。 初年度は、水素分子の担持金属への解離吸着のシミュレーションを行った。本過程は、スピルオーバープロセスの 素過程のうち、初期の段階に対応する。最も簡単で且つ重要な系として、ニッケル二量体を担持金属として導入し、水素分子の解離に対する効果を明らかにした。 なお、本研究の主要な計算の一部は、現有する東北大学金属材料研究所が所有するスーパーコンピューティングシステムを活用した、新システムは初年度4月中旬からの稼働開始となるため、安定稼働するまでの期間、他サイトの計算機を利用して効率的に研究を遂行するため、計算機利用の費用の計上することにした。得られた結果は、学術雑誌、金属学会、アジア計算材料学コンソーシアム国際会議などで発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、水素分子の担持金属への解離吸着のシミュレーションを行った。本過程は、スピルオーバープロセスの 素過程のうち、初期の段階に対応する。最も簡単で且つ重要な系として、ニッケル二量体を担持金属として導入し、水素分子の解離に対する効果を詳細に明らかにすることができた。基底状態と一電子励起状態についての密度汎関数理論を実行することにより、両者の電子状態の違いを明らかにすることができた。つまり、基底状態の場合には、水素分子はニッケル二量体上で振動をするのみで解離しないことが分かった。一方、一電子励起状態の場合には水素分子が解離し、最終的にニッケルの水素化物が生成されることが分かった。ニッケル二量体導入により、HOMO-LUMOギャップが11.2eVから0.1eVへと減少することが担持金属としての効果である。この0.1eV程度のエネルギーは熱エネルギー等で与える事ができる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は担持金属の効果を明らかにするため、水素分子と担持金属のみからなる系についてのシミュレーションを実施した。今後は、解離後の水素原子が貯蔵材料中へ吸着されるまでの過程を追うシミュレーションを実行する予定である。電子の励起状態を考慮したシミュレーションは大規模となるため、貯蔵材料としては、グラフェンシートを模したコロネンを導入する予定である。 既に効果が明らかになったニッケル二量体、水素分子、コロネンから構成される系を導入し、時間依存密度汎関数理論を実行することで、水素分子が原子状水素へ解離し、原子状水素がコロネンへ移動、コロネン表面を移動する過程をシミュレートする。その際、基底状態、励起状態を比較することで、両者の電子状態の影響を明らかにする予定である。 これらの本研究により、励起状態を含むスピルオーバーのダイナミクスを明確に扱った新規貯蔵材料の理論設計が可能となるため、従来より高密度な水素貯蔵材料開発への設計指針を与えることが可能となる。なお、本研究では大規模系に対する長時間を追う分子動力学シミュレーションを多数実行するため、保存されるデータ量は莫大になる。特に、励起状態を考慮したTDDFT は、計算途中で保存されるべきエネルギーレベルの情報が基底状態の計算と比べても一桁から二桁以上大きい。これらのデータを保存・解析するための計算機購入費を計上した。また、北海道大学計算機センターのスーパーコンピューターを利用するため、その計算機利用料を計上した。 また、TOMBO プログラムへの新規追加サブルーチンが完成した際に、研究協力者であるスルイターマーセル氏との打ち合わせを行い、動作確認とテスト計算を実施する予定である。得られた結果は、学術雑誌、および金属学会、アジア計算材料学コンソーシアム国際会議などで発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究費による主要設備であるシミュレーターは、第一原理計算の実行、TOMBO プログラムの解析サブルーチンの作成、結果の解析および可視化に用いる。特に、短期間で集中的にプログラムを完成させるためには、申請者が長時間占有できるコンピューターが必須である。そのために主要設備の購入費を計上した。なお、本研究の主要な計算の一部は、北海道大学が所有するスーパーコンピューティングシステムを活用するため、計算機利用費を計上する予定である。また、本研究では大規模系に対する長時間を追う分子動力学シミュレーションを多数実行するため、保存されるデータ量は莫大になる。特に、励起状態を考慮したTDDFT は、計算途中で保存されるべきエネルギーレベルの情報が基底状態の計算と比べても一桁から二桁以上大きい。これらのデータを保存するための増設ハードディスク購入費を計上した。 研究成果発表は、国内会議(日本金属学会、ナノ学会) において行う。さらに学術論文を年に一報の割合で計上しているが、その際、外国語論文の校閲が必要である。
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