研究課題/領域番号 |
24560827
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
佐俣 博章 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 教授 (90265554)
|
研究分担者 |
永田 勇二郎 青山学院大学, 理工学部, 教授 (90146308)
小澤 忠司 独立行政法人物質・材料研究機構, その他部局等, その他 (90450288)
|
キーワード | 結晶成長 / オキシ水酸化物 / 光物性 |
研究概要 |
1. 照明用白色LEDは、光源であるLEDと光の波長を変換する蛍光体から構成されている。照明に求められる重要な性質の一つに演色性があり、高い演色性の照明を実現するためには、光源として近紫外光LEDを利用することが有効とされている。そのため、利用する蛍光体には、近紫外光を黄色等の可視光に変換する性質が必要となる。本研究では、ガドリニウムのオキシ水酸化物を蛍光体のホスト相とし、応用上重要となる黄色発光を得るために、発光中心としてジスプロシウムイオンを置換した結晶の合成と評価を行った。得られた結晶は、近紫外光照射によって色度図上黄色に発光した。しかし発光強度が低いため、増感剤としてビスマスイオンを同時置換した結晶の合成と評価を行った。その結果、特定波長の近紫外光の照射時には、発光強度が約40倍に増大した。これらの結果より、適切な元素の同時置換が、蛍光特性の大幅な改善に有効であることを明らかにした。 2. 通常の蛍光現象では、物質に照射した光のエネルギーの一部が物質中で熱として消費されるため、照射光よりも物質から放射される光子のエネルギーの方が小さくなる。これとは逆に、物質内部で複数の光子から一つの光子を作り出すことにより、照射光よりも放出される光子のエネルギーの方が大きくなる現象をアップコンバージョンという。この現象は、太陽光の一部を波長変換することで、触媒と太陽光を利用した水素製造や太陽光発電の効率向上に寄与することが期待されている。本研究では、独自に開発したオキシ水酸化物の結晶合成と同じ手法を酸化ガドリニウムに適用して同時置換型結晶を合成し、評価した。その結果、発光中心にテルビウムイオン、増感剤にイッテルビウムイオンを同時置換した結晶において、赤外光を可視光へ波長変換するアップコンバージョンの発現を確認した。しかし、その変換効率はまだ低く実用段階にはない。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、独自に開発した合成手法を駆使して、2種類以上の異なる元素を同時置換した結晶を合成し、得られた良質な結晶の物性を評価・解析することによって、新しい蛍光体の開発を目指している。以下の理由により、平成25年度については、「おおむね順調に進展している」と評価した。 「研究実績の概要」に記載したとおり、平成25年度までに、ガドリニウムのオキシ水酸化物をホスト相とし、本系における新たな発光中心として、応用上重要となる黄色発光を目指したジスプロシウムイオンの蛍光特性の評価を行った。その結果、増感剤としてビスマスイオンを同時置換することにより、特定波長の近紫外光照射時の発光効率が大幅に増大することを明らかにした。また、独自に開発した手法を用いて、ホスト相を酸化ガドリニウム、発光中心をテルビウムイオン、増感剤をイッテルビウムイオンとして合成した同時置換型結晶において、エネルギー分野への応用が期待されるアップコンバージョンの発現を確認した。さらに、発光中心をイッテルビウムイオン、増感剤をエルビウムイオンとした同時置換型結晶においては、一つの光子から二つの光子を作り出す量子カッティング機構の発現によるものと考えられる近紫外光照射による赤外発光を観測した。量子カッティング現象を太陽光発電に応用すれば、吸収率の低い波長域の光を吸収しやすい波長域の光に変換することで、発電効率の向上に寄与できると考えられている。 ただし、これまでに得られている上述のアップコンバージョンと量子カッティングによる波長変換特性は、まだ応用上十分なものとは言い難い。蛍光体の波長変換特性は、ホスト相の種類とそこに置換する発光中心と増感剤の種類や比率に大きく依存するため、特性改善のために今後さらなる実験が必要となる。それでも、当初目指していた研究成果がほぼ得られていることから、「おおむね順調に進展している」と評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度までに得られた研究成果を基にして、同時置換型の新しい蛍光体の開発を継続して行う。独自に開発した手法を用いて様々な組成の同時置換型結晶を合成し、得られた良質な結晶に対して、X線回折とそのデータを用いたRietveld法による結晶学的性質の評価を行うとともに、ICP発光分光分析装置による組成分析を行う。その上で、蛍光分光光度計と絶対PL量子収率測定装置による蛍光特性の評価を行う。蛍光体による波長変換特性は、そこで使用するホスト相の種類や、ホスト相に置換する発光中心と増感剤の種類と比率により大きく変化する。そのため、実験条件を様々に変化させた結晶合成実験が必要となる。 今年度は、複数の光子から一つの光子を作り出すことで長波長光を短波長光に変換する技術であり、エネルギー分野・光医療分野への応用が期待されるアップコンバージョン特性の評価・解析を中心に研究を推進する。また、アップコンバージョンとは逆の波長変換技術であり、一つの光子から二つの光子を作り出すことで短波長光を長波長光に変換する量子カッティング機構の発現についても評価・解析を行っていく。これらの性質は、物質の構造と組成に密接に関係している。特に、波長変換後の光を空間に放出する役割の発光中心と、入射光のエネルギーを発光中心に受け渡す役割を担う増感剤が重要となる。そこで、これらの種類と比率の検討を中心として様々な組成の同時置換型結晶の合成と評価を行うことで、さらなる特性の改善を目指す。 以上の内容から得られた研究成果については、学術雑誌、国内の学術講演会及び国際会議において発表するとともに、大学・学会などで企画されるシーズ発表会などを通じて産業界へ発信する。また、今年度は最終年度であるため、この3年間で得られた研究成果についての総括を行う。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究を効率的に推進するため。 前年度からの繰り越し金(49,112円)については、結晶合成に用いるランタノイド原料の購入(消耗品費)としての使用を予定している。
|