研究課題/領域番号 |
24560829
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
江場 宏美 東京都市大学, 工学部, 准教授 (90354175)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | X線回折 / 共焦点 / 結晶構造 / 不均一試料 / マッピング |
研究概要 |
試料内の特定の領域における結晶相の同定と,試料内での結晶相の分布を分析するための新しいX線回折技術を開発することを目的とし,共焦点型X線回折装置の構築を検討した。X線入射側と検出側それぞれにX線集光素子を設け,これらの焦点が重なった点からの回折X線を検出することで,試料内部の特定箇所の結晶相を調べ,その三次元分布を観察した。以下,具体的に記す。 ブラッグブレンターノ型の汎用型粉末X線回折装置の回折計を利用し,これに先端を細くしたガラス管またはポリキャピラリを集光素子として取り付けて共焦点配置とした。模擬試料を作製してX線回折測定を行った。検出器側を2θスキャンすることで回折パターンを測定し,試料をステージ上でX-Y-Zの3次元方向にスキャンしながら,測定を繰り返した。試料上の各点において特定の結晶相の回折線を観測し,その積分強度についての3次元マッピングを行った。その結果,試料内における結晶相の位置と形状がおおよそ反映された3次元分布像が得られ,共焦点配置でのX線回折測定が可能であることが確認された。 一方,今回の光学系はビーム径が大きいために共晶点のサイズが大きくなり,実際の結晶相のサイズよりも広がった分布が得られた。つまり共焦点サイズ相応の分解能となった。またX線の回折角に応じて共焦点が変形し,マッピング像も対応して歪んだものとなった。さらに,試料内の深い位置からの回折線は吸収により減衰し,強度が弱くなって観測が難しくなった。以上の結果は想定されていたものであり,今後順次装置を改良していくための指針を得ることができた。2次元検出器によるX線イメージ撮像テストなども実施し,装置構成のセットアップを中心とする本年度の基本的な検討は順調に遂行できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
共焦点型の光学系をセットアップし,X線回折測定を実施できた。光学調整の検討と工夫を行い,検出器の2θ回転軸と共焦点を正確に一致させて,回折データを取得して評価することができた。実験室系のX線源を用いてビーム径を小さく制限すると強度が弱くなり,実際上測定が困難となるためX線を集光する必要がある。しかしこの場合,必然的にビームの角度発散が大きくなるために回折線の角度プロファイルが広がり,X線回折で重要な角度情報の分解能が低下する問題があるが,そのような条件でも得られたおおよその角度から相の判別が可能で,現実に相の同定が可能であることを示すことができた。また,共焦点の形状やサイズと試料方位との関係によって,得られるマッピング像との関係について比較・整理し,今後のX線集光条件や回折測定条件についての指針を得ることができた。さらに,X線吸収係数の大きい物質や試料内部の深い位置についても,X線の減衰を抑えて十分な信号強度を得られるようにするため,X線光源をCu管球から波長の短いMo管球に変更しての測定も実施し,良好な結果を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでは既存のブラッグブレンターノ型回折計を流用して装置を組んだが,光学系を最適化し,さらに拡張性の高い装置とするため,回折計の構築から新たに開始する。回転ステージの上に2θアームを設け,この上に集光素子と検出器を設ける。入射X線側の集光素子の焦点と回転ステージの回転中心,検出器側の集光素子の焦点を正確に一致させる。2θ走査と試料マッピングのためのX-Y-Z走査ステージはすべてパソコンで制御し,また検出器からのシグナルも同時にパソコンに取り込みデータ収集までできるようシステムを構築する。そのため,ソフトのプログラミングを進める。 試料上での位置分解能の高分解能化を進めるためには集光素子の焦点サイズを小さく形成させる必要があり,そのための素子の位置・角度調整を厳密に行えるよう,ステージなどを導入して装置を設計し,構築を進める。同時に角度発散が最適になるよう,試料や検出器に対する素子の配置・距離を調整していく。 X線透過能に優れたMo管球からのX線の利用が可能であることが確認できたため,引き続き最適化を進め,よりX線吸収係数の大きい試料や,深い位置からの回折線観測も可能とする。 また,同じ配置で2次元検出器を導入して、広範囲の2θ(回折角度)範囲の回折線(回折パターン)を取得し、角度走査機構の省略と測定時間の短縮化を試みることや,エネルギー分解能のある半導体検出器を取り付け,結晶構造と同時に蛍光X線による組成情報を3次元的に取得することを試みる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度の物品購入の端数として少額生じたものである。次年度の助成金と合わせて,物品費の一部として使用する計画である。
|