研究課題/領域番号 |
24560843
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
糸井 貴臣 千葉大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50333670)
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キーワード | マグネシウム合金 / 加工 |
研究概要 |
今年度はMg-Cu-Y合金においてMg100-x-yCuxYy(x=0~10at.%, y=0~10at.%)の組成範囲で試料の作製を行った。作製した試料について組織観察を行った結果、x=1, y=2 at.%の組成においてはMgと長周期相の2相組織でありCuおよびY量の増加に従い長周期相の生成率が増加し、x=2、y=4 at.%の組成においては面積率においてほぼ半分が長周期相であり、x=7、y=9 at.%においては90%以上が長周期相であることが明らかとなった。EDS分析の結果、長周期相の組成はおよそMg-5Cu-7Y (at.%)であった。生成した長周期相についてTEMを用いて組織観察を行った結果、18R型の長周期相であることがわかった。HAADF-STEM象からは、いずれも積層欠陥を含む4原子層において溶質原子が濃縮している様子が観察された。これらの濃縮層においては、明確な溶質原子の規則性は観察されないが、Mg-Zn-YまたはMg-Ni-Y合金系に生成する長周期相と同様に、Cu6Y8(L12)クラスターが存在し、それらが不規則的に配列していると考えられる。 作製した試料おいて室温において圧延を行った結果、長周期相を有するMg-Cu-Y合金において圧延後にキンク変形が観察され、長周期相の面積率が増加するに連れて、その加工性が向上する傾向が明らかとなった。長周期相の生成量が少ない組成ではMg相と長周期相の界面で破壊を生じることが多い。X線回折測定の結果、長周期相の面積率の増加により頻繁にキンク変形が生じ、その結果、圧延による底面配向が抑制されると考えられる。作製したMg-Cu-Y合金について、室温にて引張り試験を行った結果、長周期相の生成量の増加に伴い降伏強度は増加したが、圧延により観察されたキンク変形は観察されず、室温での伸び値は長周期相の生成量の増加に従い低下した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は長周期相を有するMg合金について、室温圧延によるキンク変形のメカニズムを調べ、圧延後の熱処理による組織制御を行い、高強度Mg合金板を作製する事である。前年度においてはMg-Ni-Y合金において、Mg相と長周期相の生成量に着目し、種々の組成を有する合金を作製して組織観察を行った。その後、圧延特性を明らかにするために、室温にて圧延を行った。本年度は昨年度に培ったノウハウを活用し、新たに長周期相を生成すると考えられる合金系についてMg-Cu-Y合金に取り組んだ。Mg-Cu-Y合金においてもその状態図は明らかになっておらず、実際に試料を作製して組織観察を行う必要がある。その結果、Mg-Ni-Y合金と同様に長周期相が生成することが明らかとなり、また、溶質原子濃度の増加に従いその生成量も増加することがわかった。その結果100%ではないものの、鋳造状態において、Mg84Cu7Y9(at.%)合金において、ほぼ長周期相で構成される事も明らかとなった。室温における加工性においても、Mg-Ni-Y合金と同様に30%程度まで加工できることがわかった。また圧延板の組織においてはキンク変形を頻繁に生じている事もわかり、引張り試験ではこのようなキンク変形を生じない事も明らかとなった。 以上、これまで明らかにされていないMg-TM-Y(TM=遷移金属)においてTMにNiまたはCuを用いた合金を作製した結果、いずれの合金においても、長周期相が生成すること、また室温圧延においても長周期相の増加に伴い加工性が改善されること、そして圧延においてはキンク変形を頻繁に生じる事等、本研究の目的遂行のための合金系の拡大および系統的な調査が行えており、本年度の目標は達成できている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は研究計画の最終年度にあたる。これまでに作製したMg-M-Y合金(M=Ni or Cu)合金について室温圧延の加工限界と加工後の熱処理による長周期相の再結晶化を試み、機械的特性の評価を行う。その際、本研究の課題の一つであるキンク変形について、そのメカニズムの解明を目的とした組織観察を行う。最も有効な手段としてEBSD解析がある。EBSD解析は結晶方位解析に用いられる手法であり、加工により生じるキンク変形において、その界面形成における方位回転について明らかにすることができる。しかしながらその観察においてはひずみの少ない清浄表面を得る必要がある。従って、まず作製した合金について、EBSDが測定可能な研磨面を得るための研磨条件を明らかにする。作製したMg85M6Y9 (at.%)合金を用いて、研磨剤の違い(アルミナ、クロミア、もしくはシリコンカーバイド)による研磨面の状況をそれぞれ明らかにし、EBSD測定に適した研磨状況を明らかにする。本研究では長周期相の再結晶化についても調べる予定であり、この研磨条件が明らかになった場合、再結晶化についてもEBSDによる有用な情報を得ることができると考えられる。従って本年度は、キンク変形のメカニズムとその再結晶化および作製した板の機械的特性を明らかにする。
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