今年度はこれまでの研究において室温での圧延が可能であった長周期相の室温変形に関わるキンク変形についてそのメカニズムを調べた。キンク変形のメカニズムを調べる効果的な手法としてEBSD解析がある。Mg85Ni6Y9(at.%)合金組成を軸としてNiまたはY量を調整して合金探査を行った結果、18Rおよび10H型の長周期相単相合金がそれぞれ作製できた。18R型Mg-Ni-Y長周期相についてEBSD分析を行った結果、鋳造またはその熱処理後において長周期相はランダムに配向しており、ほとんどの相内に<00018>軸まわりに回転したロンボヘドラル双晶が観察された。 近年、山崎らは Intragranular misorientation axis (IGMA)分析により長周期相に形成したキンク帯について、すべりにより誘発された格子の回転とその回転軸(テイラー軸)を決定し、実験的に得られるIGMA分布より、ある特定のすべり系のテイラー軸に沿う変形を生じるような支配的なすべり系を決定している。本研究においても室温圧延で形成されたキンク帯について同様にIGMA分析を行った。圧下率20%の18R型Mg-Ni-Y単相合金圧延材のIPFマップより、4から20°の角度差をもつ多数のキンク帯が観察された。キンク帯のIGMA分析の結果、〈0-110〉//〈1-100〉軸をテイラー軸とするキンク帯と、〈1-210〉軸をテイラー軸とするキンク帯に分類された。いずれのキンク帯も〈uvt0〉の範囲(u,v,tはu+v+t=0を満たす任意の実数)にプロットの集中が見られることから、主に底面〈a〉すべりにより形成されたキンク帯であると考えられる。また、室温にて50%圧延を施したMg-Ni-Y合金について803Kで7.2ksの熱処理を行った結果、数μmから30μm程度の結晶粒が観察され、室温での変形により蓄積されたひずみに起因した再結晶化が確認された。
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