研究課題/領域番号 |
24560848
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
吉水 広明 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (10240350)
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キーワード | 分子配向 / 液晶性高分子 / 気体分離膜 / 磁場配向 / 全芳香族ポリエステル / 拡散特性 |
研究概要 |
微視的に高秩序な分子ナノ構造を自発形成する液晶性高分子を用い,“高い透過性と分離能を兼ね備えた新規高性能気体分離膜”の創製を目的とし,液晶性高分子である“アルキル側鎖を有する全芳香族ポリエステル類”の磁場配向試料の作成を行った.具体的には,ピロメリット酸の1,4-ジアルキルエステルと4,4-ビフェノールから合成された,全芳香族ポリエステル,B-C6及びB-C10,B-C14 (数字は側鎖炭素数)を用いて,それらの液晶発現温度で自発形成される秩序構造を,超電導磁石内で形成させた.なお,磁場配向試料の調製に先立ち,これを可能にする超電導磁石内で使用可能な加熱ステージを製作した.試作試料の磁場の印加方向に対する,秩序構造の配向方向やその様式を,①X線回折,②固体核磁気共鳴から調べた.高分子鎖が印加磁場方向に平行に並んだ配向構造が確認された.さらに,固体C-13 NMRスペクトルの詳細な解析から,B-C6はB-C10やB-C14よりも秩序化が高度に進行しており,ほぼ結晶状態といえるものであること,及び側鎖の付け根にあたるカルボニル基の秩序構造内における配位方向が90°変化していることを突き止めた.磁場勾配パルスNMR法による試料中のメタンの自己拡散係数を測定したところ,B-C10とB-C14は磁場配向させると気体拡散特性が向上するが,B-C6では逆に低下することを見出した.以上の結果より,B-Cn (nは側鎖炭素数)が自発形成する秩序構造は,気体分子にとっては異方的な拡散経路を提供し,その方向は側鎖炭素数によって変えられることが明らかにされた.これらの成果は,本研究の目的である,「高い透過性と分離能を兼ね備えた新規高性能気体分離膜の創製」に向けて,B-Cnが好適な高分子素材の一つと成り得る証である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的達成への研究計画として,当初は二種類の液晶性ポリエステルを合成して,気体の拡散経路が層状または円筒状かを作り分け,これらを比較検討する予定にしていた.しかし,層状構造を形成するタイプのものしか合成できなかったので,達成度は些か低く評価せざるを得ない面があるものの,タイプは同じだが,側鎖長を変えた試料の合成には成功し,これの磁場配向構造を詳細に調べた結果,当初の予想では思いもよらなかった事実を確認できた.具体的には側鎖長が短いとより高度に層状構造が秩序化され,気体の拡散経路としては円筒状に限りなく近い性質を示すことが明らかにされた.この成果は研究計画を立てた時点からすると想定外ではあるが,結果論として当初目的を順調に果たしたことになり,「おおむね順調に進展している」との自己評価をした.
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今後の研究の推進方策 |
1.当初予定していた液晶性ポリエステル,PBT-Onの合成を進め,既に種々の検討が進行しているB-Cnと比較検討できるように研究を進める. 2.昨年度から引き続き,おおむね直径20ミリの円盤状試料が調製できる専用試料調製台の制作を進める. 3.昨年度と同様に円柱状試料でも気体の拡散特性が計測できる,磁場勾配パルスNMR法を容易に適用できる専用試料管並びに圧縮気体導入機の制作並びに計測法の確立を進めると同時に,データ解析を進めて拡散異方性の評価精度を上げる. 4.高品質なデータを理論式に代入して,各種気体の透過特性を精度高く推定し,磁場配向試料に対する透過性能の異方性評価並びに気体分離能について検討する. 5.最終的に,B-Cn及びPBT-Onが「高い透過性と分離能を兼ね備えた新規高性能気体分離膜」と呼ぶにふさわしいものであることの実験証明をして,研究を取りまとめたい.
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