微視的に高秩序な分子ナノ構造を自発形成する液晶性高分子を用い,“高い透過性と分離能を兼ね備えた新規高性能気体分離膜”の創製を目的とし,液晶性高分子である“アルキル側鎖を有する全芳香族ポリエステル類”の磁場配向試料の作成を行った.具体的には,層状構造を形成する,B-C6及びB-C10,B-C14 (数字は側鎖炭素数)と,ハニカム構造を形成する,PBT-O10の2種類の全芳香族ポリエステルを用い,それらの液晶発現温度で自発形成される秩序構造を,超電導磁石内で形成させた.なお,磁場配向試料の調製に先立ち,これを可能にする超電導磁石内で使用可能な加熱ステージを製作した.試作試料の磁場の印加方向に対する秩序構造の配向方向やその様式を,①X線回折,②固体核磁気共鳴から調べた.高分子鎖が印加磁場方向に平行に並んだ配向構造が確認された.調製した各試料にメタンを収着させて磁場勾配パルスNMR法による系中のメタンの自己拡散係数を測定し,気体拡散特性を評価した.ハニカム構造を形成するPBT-O10の方が拡散特性は大幅に向上していた.さらに,B-C6は他の層状構造を形成するB-C10,B-C14よりも秩序化が高度に進行しており,ほぼ結晶状態といえ,秩序構造に沿った気体の拡散方向が90°変化していることを突き止めた.以上の結果より,液晶性ポリエステル類が自発形成する秩序構造は,気体分子にとっては異方的な拡散経路を提供し,その方向並びに拡散効率は側鎖の化学構造や炭素数によって変えられることが明らかにされた.これらの成果は,本研究の目的である,「高い透過性と分離能を兼ね備えた新規高性能気体分離膜の創製」に向けて,これらのポリエステル類が好適な高分子素材の一つと成り得る証である.
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