研究実績の概要 |
クロム被毒によるカソード劣化を抑制する独自コンセプトの実現のため、(1)過電圧によるクロムの移動定量化(⇒クロム再蒸発を促進する最適制御)、(2)カソード/クロム分子相互作用の解明(⇒カソードの最適表面組成・構造概念設計)、(3)クロムを固定化しないカソード材料の探索(⇒耐被毒性カソード材料の開発)に取り組んだ。(3)については、6種類のカソード材料LSM,LSCF,LNF,BSCF,PrSM,NdSMを比較し、電解質近傍にクロムが析出するタイプ(LSM, LNF, PrSM, NdSM)と、カソード表面にクロムが析出するタイプ(LSCF, BSCF)に分類できることを示した。LSCF, BSCFは、カソード過電圧によりクロム蒸気との反応性が上昇すると考えられ、このような反応性の差異による影響はあるものの、カソード過電圧によって電極反応場、特に電解質(ジルコニア等)表面に生成する酸素空孔がクロム析出を促進する機構は、カソード材料によらず共通と考えられる。(1)(2)については、カソード材料に従来用いられることがなかったNiOを用いてメカニズム研究を行った。高分解能電子顕微鏡(S-TEM)観察により、NiOをカソード材料に用いた場合、ジルコニアやセリアなどの電解質材料表面のみにクロムが析出することを確認した。電子エネルギー損失分光(EELS)によって、析出クロム中の酸素濃度低下を確認し、表面に吸着したクロム分子から電解質側へ酸素が抜かれて析出が進行する機構を推定した。カソード材料に用いたNiOが電解質表面を薄く覆い、電解質表面に電子を供給して酸素空孔を生成させると感がられる。また、過電圧を200 mVから0 mVやマイナス200 mVへ変化させることによって、析出したクロムが部分的に消失したり、逆に成長(凝集)したりするなどメカニズム解明につながる挙動を確認し、過電圧変化とクロム析出分布の変化を対応させることによりクロム析出メカニズムをよりクリアにする手法の有効性を確認した。
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