研究課題/領域番号 |
24560856
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研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
鈴木 真由美 富山県立大学, 工学部, 准教授 (20292245)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 積層欠陥エネルギー / マグネシウム合金 / 交差すべり / 非底面すべり / クリープ変形機構 / c転位 |
研究実績の概要 |
希薄固溶体であるMg-0.3Y-0.02Zn合金に対し450~600Kの温度範囲,100MPa, 80MPaの応力にてクリープ変形挙動の調査を行い,そのクリープパラメータと変形組織観察から,本系合金のクリープ変形機構の同定と行った.クリープ試験の結果得られた応力指数および活性化エネルギーの値より,上記のクリープ条件でのクリープ変形機構は転位クリープであり、少なくとも480K以上では交差すべり律速の転位クリープであると推定される.一方で本系合金ではMg-Al合金や純マグネシウム,Mg-Al-Ca三元合金で報告されているような活性化エネルギーの応力依存性がはっきりと認められなかった. 過去に報告された純マグネシウムの積層欠陥エネルギーの値とMg-0.2Y合金およびMg-0.9Y-0.04Zn合金のTEM観察結果から得られている積層欠陥エネルギーの値を用い,上昇運動律速のクリープにおいて提案されている構成方程式より,上昇運動律速のクリープが支配的になると予想される温度を見積ると480K程度となる.この温度よりも高温の490Kではa転位の交差すべりが活性化している一方,450Kではa転位の交差すべりの割合が大幅に低下し,a転位の多くは底面上に導入されていることから,450~480Kの間でクリープ変形機構の遷移が生じている可能性が考えられる. 450K以下でのクリープ温度域において非底面上に多くのc転位がクリープ変形後の組織に認められたが,これらc転位は複数の応力で,かつ荷重負荷直後から柱面上に導入されており,変形初期から変形に関与しているものと考えられる.更にこれらのc転位は底面上のa転位と強く相互作用している様相が認められた.450K以下での中温域では,c転位がa転位のすべり運動に対して障害物として作用し,クリープ変形に寄与していると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年までの検討の結果,本系合金において480K以上の温度域のクリープ変形の様相は,六方晶金属で多数報告されている,高い活性化エネルギーを有する高温域でのクリープ変形機構で説明できることを明らかにした.一方でMg-Al合金や純マグネシウム,Mg-Al-Ca三元合金で報告されているような活性化エネルギーの応力依存性がはっきりと認められないことは,本系合金における非底面すべりの活性化が,溶質原子(Y)の拡散に強く依存していることを示唆しているものと考えられる. この傾向は本系合金における積層欠陥エネルギーの算出について,転位の拡張幅のばらつきが非常に大きいことに反映されている.その一方で,現在得られている積層欠陥エネルギーの平均値をfcc基合金で提案されている上昇運動律速のクリープ構成方程式に代入し,変形機構の遷移を温度を見積った結果とa転位の非底面すべりの活性化が生じる温度は近い値を取っている.このことからfcc基合金で提案されている上昇運動律速のクリープ構成方程式をhcp金属であるマグネシウムに対して十分適用出来ると考えられる. しかしながら実験的に得られる活性化エネルギーの値はa転位の非底面すべりの活性化と連動していない.この現象にはc転位による変形の活性化によって現在定性的に説明可能である.c成分を含む転位は荷重負荷直後から導入され,更に底面上のa転位と強く相互作用する.この温度域での長時間クリープ挙動については平成27年度に研究期間を延長して検討することとしており,研究期間内に広い温度範囲において本系合金の転位クリープにおける変形機構を定性的に,変形機構の遷移と450K以下の低温域においては一部定量的に説明できると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
平成26年までの検討の結果,本系合金において,マグネシウム合金の低積層欠陥エネルギー化による強化と,変形機構の温度依存性について,a転位が関与するすべり系の活性化の観点からは非常によい一致を示すことがわかった.また,fcc合金で提案されている上昇運動律速のクリープ構成方程式がマグネシウム基合金にも適用可能であることがわかった. 450K近傍で見出されたc成分の含む転位すべりの活性化の寄与については検討が進んでいる.平成26年度はクリープ試験炉が故障したため長時間の実験は行えなかったが,低温短時間(遷移域)でのクリープ試験を複数の応力条件で行い,c成分を含む転位は荷重負荷直後から導入され,複数の応力条件で変形初期から変形に関与していることがわかった.更に底面上のa転位とc転位の間には強い相互作用が認められ,c転位の林転位による強化が中温度域以下でのクリープ変形に大きく寄与していることがわかった.長時間クリープについては平成27年度に研究期間を延長して検討し,同年度内にこの温度域における強化機構の提案とその定量化を行う予定である. また,480K以上の領域においては,現在得られている複数のMg-YおよびMg-Y-Zn合金のクリープデータを用いて半定量的な構成方程式を提案する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度中,本研究計画において主に使用していたクリープ試験機2台のうち1台が故障し,その復旧修理に伴い試験機の一部のシステムを変更せざるを得なくなり,部品調達と調整のために半年以上の時間を有した.加えて平成25年の研究成果によって,当初の計画よりもより低温長時間のクリープ試験が必要であることが明らかとなっていた.上記の状況より,平成26年度の実験は1台のクリープ試験機で比較的短時間の実験を行うスケジュールに切り替えて対応を行い,長時間クリープのデータに関しては補助期間を延長することで対応し,当該実験の遂行を行うこととしたため.
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次年度使用額の使用計画 |
長時間クリープ試験を合わせたクリープ試験後の組織構造解析に要する実験費用(電子顕微鏡観察用試料の作製・電子顕微鏡使用料)に8万程度,国際会議での成果報告費用(発表確定:13th International Conference on Creep and Fracture of Engineering Materials and Structures, 2015年5月31日~6月4日)に約30万円の他,論文投稿費用と報告書印刷費に4万円程度を計上している.
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