低積層欠陥エネルギーを有するMg-Y-Zn希薄固溶体合金に対して450~650K,60~120MPaの条件にてクリープ変形挙動の調査を行い,そのクリープパラメータと変形組織観察から,本系合金のクリープ変形機構の同定と低積層欠陥エネルギー化による高強度化についての検討を行った.上記実験範囲では高温・高応力側でべき乗則崩壊の傾向が認められたが,それ以外の領域での応力指数は4程度の値を示した.また,クリープの活性化エネルギーは約190kJ/molとの値を示した.純マグネシウムおよびMg-Al合金で同様のクリープパラメータを示す温度領域は約700K以上であり,後に示す組織観察の結果も合わせて検討すると,本合金は480K以上で交差すべり律速の転位クリープで変形を行っていると結論付けられる.更に,本系合金ではY添加の強化により,Mg-Al基合金も高い応力域での活性化エネルギーの増加が認められた. 本合金におけるクリープにおけるa転位のすべり面の傾向は450Kとそれ以上の温度で大きく変化し,450Kではa転位の底面すべりが主体となり,480K以上ではa転位の底面すべりに加えa転位の非底面すべりが活性化する.この変化が生じる温度域は,fcc金属および合金で半経験的に得られた上昇運動律速の転位クリープ速度の構成方程式から見積った低積層欠陥エネルギー化による強化と,クリープ速度の実測値がおおよそ同等となる温度域であり,前述の構成方程式がfcc材料のみならずマグネシウム合金でも適用可能であることが実験的に明らかとなった.一方で,活性化エネルギーの観点からは上昇運動律速の転位クリープの遷移を示す明瞭な傾向が認められない.その理由として予測された遷移温度近傍で新たに変形の補完として結晶粒内に導入された非底面上のc転位による,底面aすべりに対する林転位強化とみかけの活性化エネルギーの増加が考えられる.
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