• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2012 年度 実施状況報告書

表面ダイナミクスに依拠した炭素質感応膜の有機ガス応答過程の解明

研究課題

研究課題/領域番号 24560863
研究種目

基盤研究(C)

研究機関東京工科大学

研究代表者

杉本 岩雄  東京工科大学, コンピュータサイエンス学部, 教授 (70350501)

研究分担者 高橋 和彦  同志社大学, 理工学部, 教授 (90332808)
研究期間 (年度) 2012-04-01 – 2015-03-31
キーワードニオイセンサ / ガス吸着 / 炭素質薄膜 / 表面
研究概要

炭素質カラム構造を有するペクチンスパッタ膜のTEM観察より、基盤界面付近は上下2層の平坦層より成ることが明らかになった。下層は基盤へのアンカー層で、上層はカラムが成長する下地となるバッファー層である。このカラムの先端部は隣のカラムと融着しているものが多く、カラムは根元細りして折れやすいことも明らかになった。さらに、電子線回折測定より、これら全ての層は非晶質であることが分かった。
イオン液体を噴霧してSEM観察した結果、親水性・疎水性を問わず含浸しやすく、局所的に含浸量が多い場合はカラムが膨潤する様子も観察された、また、イオン交換水の噴霧では、基盤界面付近まで十分に含浸して、膨潤の結果、はく離する兆候も認められた。
ケルビンプローブ顕微測定により、表面電位の分布を高湿および低湿状態で調べた。高湿状態による水蒸気の吸着・吸収の影響は表面電位の低下として現れ、高誘電率を有する吸着水が電位低下を緩和したと理解される。この影響は、カラム同士の界面やカラム欠損により生じたクレバスに特異的に現れ、水蒸気が選択的に吸着していることが推察される。
稠密カラム構造を有する炭素質膜のカラムの均一性と高密度化を向上させるべく、ペクチンの高周波スパッタ成膜条件を検討した。ヘリウムをスパッタガスに用いているが、プラズマが安定に維持できる領域を探索し、これまでのガス圧の40~170%で成膜が可能なことを見いだした。特に、高いガス圧での成膜では、クレバスの生成が抑えられることを明らかにした。また、糖の類縁物質を探索し、アガロースやmyo-イノシトールを原料としても稠密カラム構造より成る炭素質膜が得られることを明らかにした。
応用物理学会において2件のポスター発表(「ペクチン由来炭素質薄膜の吸着試験による表面形状の変化」、「プローブ顕微鏡による有機スパッタ膜の表面吸着水の評価」)を行った。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

これまで作製してきた稠密なカラム構造より成る炭素質膜には、カラムの先端部分における融着が顕著になり束状になってくると、周縁部のカラムが根元から折れて帯状に無くなり、クレバスが全面に走っている状況が目についた。さらに残留応力が大きい場合は、アンカー層の褶曲による変形がクレバスの発達を加速させることも認められた。そこで、このようなクレバスの発達を抑制して、均一性の高い稠密カラム構造よりなる炭素質膜の作成条件を再認識するため、ガス圧やスパッタ材料などの成膜パラメータを検討し、均一性の高い成膜条件を抽出することを本年度の主な検討課題の一つにあげていた。この検討はマンパワー的要素が強く、組織改編による実験従事者の数的減少や研究環境の変化などから、遅れが危惧された。そこで、他研究室の博士過程の学生の研究テーマの一環に本研究を組み込むように体制を作り直した。平成24年度当初は順調に研究が進んだが、7月頃から学生が体調を崩し、研究が頓挫した状況に陥ってしまった。この状況を打開するため、研究代表者が休日を返上して成膜の検討を進めた。特に長期休暇期間は集中してプロセスが組めるので効率的に実験を進められた。さらに、実験講師を本研究の従事者に加え構造解析を中心に検討を進められるよう環境を整備した。また、10月~12月の期間は大学院生の体調が一時的に改善しプローブ顕微鏡による表面吸着水の観察に関する研究を進められた。3月からは大きな回復が認められ、応用物理学会の発表を含めて、研究活動を続けている。

今後の研究の推進方策

① 炭素質薄膜の粘弾性解析に関して。炭素質薄膜を電極上に形成した水晶振動子のインピーダンス測定により、炭素質薄膜に関する粘弾性解析を進める。稠密カラム構造の構造パラメータと振動子の共振特性との関係を明らかにする。具体的にはインピーダンスアナライザにより振動子の電気的等価回路の回路定数を求め、薄膜の粘弾性に係る共振特性における吸着水の影響を定量的に評価する。これらの影響は、回路定数やQ値の変化、スプリアスの出現などに反映されることが期待できる。さらに、吸着水が存在する状態で有機ガスによる化学刺激を与え、回路定数の変化を究明する。吸着水への有機ガスの溶解、吸着水の保持力の変化、水クラスター吸着領域以外の薄膜表面での有機ガスからの影響、などの項目に関して、インピーダンス測定をベースに明らかにしていく。
②有機ガスによる化学刺激に対する表面吸着水の挙動の解明に関して。水晶振動子の電極上に成膜した炭素質薄膜の有機ガス吸着挙動を調べる。調湿状態の下に有機ガスを導入して得られたセンサ応答を、吸着水と有機ガスとが協調して発現する吸脱着過程に対応づけて解析することを検討する。
③水蒸気や有機ガスによる炭素質薄膜への吸着現象を摩擦力や表面電位などの表面パラメータを介してプローブ顕微鏡により調べる。①や②の検討と関連付けて、総合的に表面ダイナミズムを明らかにしていく。

次年度の研究費の使用計画

吸着ガスの表面ダイナミズムを解明するため、感応膜のインピーダンス測定を進める。また、表面吸着水の制御を精密コントロールできる機材が必要となる。これらの検討のため、以下の機材を購入する予定である。
・水晶振動子のインピーダンス測定のために、周波数レスポンス・インピーダンスアナライザ(価格:1560千円)。
・調湿装置を構成するために、恒温ブロックバス(価格:93千円)
・感応膜の表面クリーニングのために、スポットランプヒーター(価格:48千円)
H24年度は、予定使用額に満たない使用総額となり、次年度への繰越金が180千円生じた。これは、定価からの値引きにより発生したことによるもので、次年度への繰越金として有効利用したい。

  • 研究成果

    (4件)

すべて 2013 その他

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] Analysis of dynamic response of plasma polymer film-coated quartz crystal resonator sensor2013

    • 著者名/発表者名
      Kazuhiko Takahashi, Yusuke Iwamuro, Iwao Sugimoto
    • 雑誌名

      International Journal of Applied Electromagnetics and Mechanics

      巻: 41 ページ: 39-49

    • DOI

      10.3233/JAE-121625

    • 査読あり
  • [学会発表] ペクチン由来炭素質薄膜の吸着試験による表面形状の変化

    • 著者名/発表者名
      須田 順子,杉本 岩雄,牧原 健二
    • 学会等名
      第60 回応用物理学会春季学術講演
    • 発表場所
      神奈川工科大学(神奈川県)
  • [学会発表] プローブ顕微鏡による有機スパッタ膜の表面吸着水の評価

    • 著者名/発表者名
      大林 正史,杉本 岩雄, 須田 順子
    • 学会等名
      第60 回応用物理学会春季学術講演
    • 発表場所
      神奈川工科大学(神奈川県)
  • [図書] Human Olfactory Displays and Interfaces2013

    • 著者名/発表者名
      Iwao Sugimoto, Michiko Seyama (Takamichi Nakamoto ed.)
    • 総ページ数
      170-180
    • 出版者
      IGI Global

URL: 

公開日: 2014-07-24  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi