研究課題/領域番号 |
24560864
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
楠 正暢 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (20282238)
|
研究分担者 |
岡井 大祐 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60336831)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | フッ化アパタイト / 結晶化 |
研究概要 |
シート状のアパタイト(Ap)を歯質表面に貼り付けることにより、齲蝕(虫歯)の発生を抑えることができる歯科用新素材を創出することを目指し、耐酸性を示すフッ化アパタイトを用いて、「フッ素含有率・結晶性傾斜型F-Ap / H-Apシート」の開発を目的としている。(F-Apはフッ化アパタイト、H-Apはハイドロキシアパタイトとして記す。) H24年度は、本研究のキーマテリアルであるF-Apの単層薄膜を作製する手法についての検討を行った。まず、既存のスパッタリング装置に対し、真空ポンプの排気終端にハロゲンフィルターを取り付け、それを介して強制室外排気する改造を施した。これは、成膜中に真空チャンバ内で極微量のフッ素ガスが発生する可能性があるため、実験中の安全を配慮したものである。室温で作製したスパッタ膜に対しエネルギー分散型X線分析装置を用いて成分分析を行ったところ、H-Apの場合と明らかに異なり、フッ素が含まれていることが示された。Ca,P,Fの組成比はCa10(PO4)6F2と一致はしていなかったが、ファーストステップとして、H-Apの場合と同一条件で結晶化のための熱処理を試みた。その試料に対し、X線回折のθ―2θ法を用いて結晶性の評価を行ったところ、F-Apの結晶構造を示すピークは見られなかった。そこで、ポストアニールの温度をパラメータとして上記の前後200℃の範囲で変化させたところ、同様にF-Apの結晶構造は得られなかった。この結果から、温度以外のアニール条件、膜の組成比の制御、成膜時の温度などの条件を詳細に検討する必要があることが明らかとなり、来年度の課題として残った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
F-Apのターゲット作製において、粉末をプレス・焼結したものが機械的に脆く、当初計画していたパルスレーザーデポジション法に用いるためには十分でないことが分かった。そこで、粉末ターゲットを使用できる平成25年度以降に実施の予定をしていたスパッタリング法を用いた成膜を行う様、スケジュールを入れ替えた。薄膜の結晶化のための成膜条件を未だ見出すことができていないため、その耐酸性評価を開始するに至っていない。一方、イオン濃度計を用いた耐酸性評価方法は、粉末材料を用いて予備実験を進めてきているため、F-Ap膜が得られ次第進めることができる状況にある。また、平成25年度にはリン酸カルシウムとフッ化カルシウムのペレットターゲットを入手できる見込みとなったため、これを交互にアブレーションすることで次年度にはレーザーデポジション法による成膜を試みることが可能となった。2年目の年度末には、概ね当初の計画通りに回復可能であると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度に実施予定であり、計画から遅れが生じている、F-Apを単層の薄膜で作製する手法を早急に確立し、その耐酸性(齲蝕予防効果)の評価を行わなければならない。これが完了したのち、平成25年度以降の計画である、フッ素・結晶性傾斜F-Ap / H-Apシート(表面が齲蝕しにくい高結晶性F-Ap、裏面が歯に結合しやすい低結晶性H-Ap)の構造を実現する。まずは、水酸基とフッ素が互いに置換の関係にある、H-ApとF-Apとで明確な境界を持つ2層構造を別々のターゲットから成膜する。これを成膜後、ポストアニーリングを施すことで熱拡散により境界付近に濃度勾配を作ることが可能か否かを調べる。この手法のほかに、F-Apをターゲットとして傾斜シート表面側から作製を開始し、成膜中に水蒸気含有酸素ガスを導入することによりフッ素を水酸基に置換する方法も試み、上記の手法と性能の比較を行う。具体的には、成膜中水酸基の量を徐々に増加させ、H-Apへの勾配を形成する。この方法であれば、フッ素濃度や結晶性を経時的に変化させることが容易であるため、連続性のある傾斜構造を得やすいと考えられる。一方、成膜雰囲気中には、ターゲットから放出されるフッ素イオンが常に存在しており、その反応性は水酸化物イオンに勝るため、終端面で十分フッ素濃度を下げ、歯質との結合が十分なH-Apとすることが困難になる可能性がある。そこで、最表面では、リン酸カルシウムのターゲットでアブレーションすることで、歯質との結合層を形成することを試みる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
47円の次年度使用額(B-A)がある。これは、平成24年の研究上必要であり、かつ47円以下の物品が存在しなかったため、無理な執行を避け残したものである。平成25年度予算に合算し、有効に使用する予定である。
|