研究課題/領域番号 |
24560864
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
楠 正暢 近畿大学, 生物理工学部, 教授 (20282238)
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研究分担者 |
岡井 大祐 兵庫県立大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60336831)
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キーワード | フッ化アパタイト / ハイドロキシアパタイト / 歯科治療・予防素材 |
研究概要 |
本研究はシート状のアパタイトを歯質表面に貼り付けることにより、齲蝕の防止ができる歯科用新素材開発を大目標としており、当研究助成期間内には「フッ素含有率・結晶性傾斜型F-Ap/H-Apシート」を開発することまでを目的としている。ここで、F-Apはフッ化アパタイト[Ca10(PO4)6F2]、H-Apはハイドロキシアパタイト[Ca10(PO4)6(OH)2]の意味であり、表面に耐酸性が強く齲蝕しにくい高結晶性F-Ap、裏面に歯質と結合しやすい低結晶性H-Apの構造を有する歯科治療・予防用素材を実現する。 H25年度までに、パルスレーザーデポジション法でF-Ap膜の作製法を確立した。エネルギー分散型X線分光分析法(EDX)と赤外分光法(FT-IR)を用いた評価により、OH基を全く含まない純粋なF-Ap膜が形成可能であること、また、X線回折(XRD)により結晶構造を有する(アモルファスでない)F-Ap膜が形成される条件を得ることができた。耐酸性に関しては、pHの異なるリン酸バッファー溶液を用いた溶解試験を行った結果、H-Apの場合と比べて耐酸性が向上していることが証明された。F-Ap/H-Apの2層膜化に関しては、同一チャンバ内でターゲットを変更することで実現できることまでを確認している。アニーリングによるフッ素含有率・結晶性の傾斜構造の作製については、当年度内で行うに至らず、最終年度の課題として残った。当初計画で掲げたスパッタリング法を用いた場合のF-Ap膜の作製と、そのレーザーデポジション法との比較については、現在まで試みた成膜条件においては、前者の成膜レートが1桁以上低く、数ミクロンレベルの厚みを有する自立型シートを作製するには現有設備の範囲内で行うには効率が悪いと結論付けた。成膜装置の変更を伴う将来への可能性を残しつつ、以後の実験はパルスレーザーデポジション法で行うこととした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、F-Apの焼結ターゲットの準備に時間を要したことが原因でレーザーデポジションによる実験ができなかったため、当初計画からかなりの遅れを生じていた。2年目となる今年度は初年度の遅れも取り戻し、「研究実績の概要」で述べた通り、①単層F-Apの作製、②EDX, FT-IR, XRDによるF-Ap膜の品質評価、③F-Ap膜の耐酸性評価、④レーザーデポジション法とスパッタリング法の比較、についての実験を行った。当初計画から一部遅れている事項として、「F-Ap/H-Apの2層膜のフッ素含有率・結晶性の傾斜構造作製とその確認」については実験途中の段階にあり、結論を得るに至っていないものの、全体的には概ね計画通りの進捗状況であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
F-Ap/H-Apシートのフッ素含有率と結晶性に関し、膜厚方向への傾斜構造を形成することを最終目的としているが、この実現に当たり当初計画では2つの方法を検討することを掲げている。その1つは前述のアニーリングによる熱拡散を用いる方法、2つ目は成膜時に雰囲気ガス成分の分圧を変化させることにより、膜の堆積中に取り込ませる元素の濃度に勾配を持たせる手法である。前者については、すでにF-Ap/H-Apの2層膜の作製まで目処がついているため、異なるアニール条件を用いてF, OHの膜厚方向の濃度勾配を評価する。ここでは、アニール前の2層の境界で剥離が起きないことが判断の基準となる。後者については、F-Apターゲットを用いた成膜中に酸素ガスに含ませる水蒸気量を経時的にゼロから徐々に増加させることにより実現を試みる。この方法での判断基準として注視すべき点は終端面で十分OH基が取り込まれ、H-Apと見なし得る膜が得られるか否かである。
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次年度の研究費の使用計画 |
近年、主要ジャーナルの投稿料が変更となり、以前無料であったもののうち多くが有料化され、高額になっている。当初計画の段階ではこのことを想定していなかったため、予算計画の修正が必要になった。最終年には、当研究の一部を論文として投稿する予定であるため、これを見込んで最終年度に繰越した。 繰越額に最終年度の物品費の一部を加え、論文投稿の費用とする計画である。
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