固体高分子形燃料電池(PEFC)を構成する重要な部材のひとつであるセパレータの材料としてステンレス鋼が期待されているが,耐食性とガス拡散層(GDL)との接触抵抗の問題がある。本年度は高耐食性材料として高窒素ステンレス鋼をとりあげ,模擬環境における電気化学的評価に加えて,セパレータを試作してセル性能評価を行った。同時に接触抵抗の改善法として電気化学的窒化法を取り上げた.電気化学的窒化法では従来報告例のあった硝酸塩以外にも様々な溶液中でステンレス鋼をカソード分極処理することにより,接触抵抗変化と溶液組成の関係を調査した。 高窒素ステンレス鋼は優れた耐食性を有し,グラファイト製セパレータ使用時と同等のセル電圧維持が可能であったが,接触抵抗が大きいためiRドロップによるセル電圧損失が問題となった。そこで高窒素ステンレス鋼に対し,電気化学的窒化を試みた。 接触抵抗は硝酸塩溶液だけでなく,アンモニウム塩溶液中でカソード分極処理しても低下した.一方窒素を含まない溶液中では低下しなかった.従来硝酸イオンの還元過程で生じる原子窒素が窒化物生成に関係すると考えられてきたが,本研究結果は硝酸イオンが必須ではなく,アンモニウムイオンでも同様あるいはそれ以上の効果が起こることがわかった。一方,窒素を含まない溶液中では印加電位に関わらず接触抵抗の低下効果は認められなかった. 電気化学的窒化法を高窒素ステンレス鋼製セパレータに適用し,300時間のPEFC単セル発電試験を行った結果,未処理材に比べてより高い発電電圧とグラファイト材と比べて遜色のない電圧降下速度が観察された.この結果は不動態皮膜に由来する接触抵抗が改善されてiRドロップが小さくなったこと,および高窒素鋼の優れた耐食性が電気化学的窒化処理によって失われなかったことを示している。
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