研究課題/領域番号 |
24560887
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
森園 靖浩 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (70274694)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 高融点金属 / 鉄粉 / グラファイト / 窒素 / 表面改質 / 炭化物 / 窒化物 |
研究概要 |
モリブデンは,融点が2896Kと非常に高く,ニッケル基超合金よりも高温域で使用可能な合金の主要成分として注目されている。このモリブデンをはじめとする高融点金属は,その表面に安定な酸化皮膜をもつため,熱などの周辺環境から基材を守るための表面保護層,例えば炭化物層や窒化物層の形成が一般に難しい。これまでにプラズマ浸炭やプラズマ窒化等による表面改質が検討されているが,専用設備が必要であり,また処理工程が複雑になりやすいなどの問題がある。ところで,我々のグループでは,緻密な酸化皮膜によって優れた耐食性を発揮するチタンやステンレス鋼を鉄粉とグラファイトから成る混合粉末に埋め込み,窒素雰囲気中で1273K付近に加熱・保持するという非常に簡便な熱処理で,これらの材料に炭素や窒素を容易に拡散できることを見出した。そこで本研究では,この処理法をバナジウム,ニオブ,タンタル,クロム,モリブデン,タングステンに対して適用し,1273K,3.6ksの同一条件において各金属表面に形成される反応相や表面硬さについて調査した。 [1]バナジウム,クロム,モリブデン,タングステンの場合,鉄粉を使った熱処理によって層状のVC・VN,Cr7C3・Cr2N,Mo2C,WCがそれぞれ形成された。一方,ニオブとタンタルでは表面部に島状のNbC,TaCがそれぞれ点在し,層形成には至らなかった。なお,各金属に対して生じ得る炭化物・窒化物のうち,融点が最も高い安定なものが生じる傾向にあった。 [2]鉄粉を使った熱処理後の表面硬さは,いずれの場合も熱処理前に比べて上昇した。 [3]鉄粉を加えていない粉末にモリブデンやタングステンを埋め込み,窒素雰囲気中で加熱・保持した結果,Mo2CやWCの生成は認められなかった。これは,鉄粉の存在が本処理法において重要な役割を担っていることを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「科学研究費助成事業 交付申請書」には,平成24年度の研究実施計画として以下のものを挙げている。 ◆基盤技術の確立:モリブデン・タングステンにおける処理条件の最適化 ◆基盤技術の展開:表面改質メカニズムの解明 鉄粉を使った独自の簡易炭窒化法が,高融点金属に対しても適用可能であることが明らかになった。また,設備備品として購入したマルチガス分析計により,昇温過程(873~973K)で一酸化炭素の発生がピークを迎えること,その発生量が基材中への炭素や窒素の拡散を左右することを確認した。さらに,一酸化炭素は保持段階ではほとんど検出されないこともわかった。これらのガス分析の結果は,表面改質メカニズムを考察する上で極めて有益な情報となっている。 その一方で,“モリブデンやタングステンにおける処理条件の最適化”にはまだ多くの実験を要する状況である。本処理法のパラメータである①窒素ガスの流量,②ガスの種類,③鉄粉中の炭素量,④鉄粉の粒径については,本申請課題以外の研究結果も勘案することで,最適条件が見出されつつある。しかしながら,表面改質を前提とした⑤加熱温度,⑥保持時間についてはデータが不十分であり,また基材の種類によって反応相が層状に形成される場合と島状を呈する場合があることが判明し,その原因究明も新たな課題として浮上した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,高融点金属の中でもモリブデンとタンタルに絞って,処理条件の最適化を図る。モリブデンの場合,1273K,3.6ksの条件で約13μmの均一なMo2C層が形成されるため,その生成開始温度,成長挙動,微細構造などを調査して,モリブデンに対する表面保護層としてのメリット・デメリットを明らかにする。なお,当初予定していたタングステンついては,モリブデンに対して得られた知見がある程度適用できると考えている。 一方,タンタルでは,鉄粉を使った独自の簡易炭窒化処理によってTaCを基材表面部に形成できる。このTaCは,様々な炭化物・窒化物の中で最も融点が高く(4258K),耐熱材料として有望視されるが,モリブデンと同様に処理を施してもTaC層は形成されず,島状に分散した組織となる。したがって,TaCの成長挙動や微細組織などを調査し,層形成に至らなかった原因を明らかにすることが,本研究にとって優先すべき課題であると判断した。 また,圧延などの強加工を受けたモリブデンは,1300Kを越える高温では再結晶により等軸結晶粒組織を呈し,延性-脆性遷移温度が室温付近まで上昇することが知られている。このため,モリブデンより高い再結晶温度と高温強度を有するモリブデン合金(TZM合金)に対する表面改質効果も調査する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費は【消耗品費】・【国内旅費】・【外国旅費】・【その他】として使用する。【消耗品費】では,「金属素材」をはじめ,試料の切断・研磨作業に用いる「ダイヤモンド砥石・研磨剤」,研磨後のエッチング等に用いる「化学薬品」,熱処理に要する「電気炉補修部品・窒素ガス」などが主たるものである。また【国内旅費】・【外国旅費】では,日本金属学会の講演大会やThe 8th Pacific Rim International Conference on Advanced Materials and Processing (PRICM-8)にそれぞれ参加し,成果発表や情報収集を行う予定である。【その他】の項目からは,国内外の論文誌に発表するための「研究成果投稿料」を支出する。
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