研究実績の概要 |
モリブデン(Mo)は,融点が2896 Kと非常に高く,ニッケル基超合金よりも高温域で使用可能な合金の主要成分として注目されている。このMoをはじめとするⅣ,Ⅴ,Ⅵ族の高融点金属は,表面に安定な酸化皮膜が存在することから,従来のガス浸炭等によって炭素や窒素を拡散浸透させ,それらの表面に炭化物層や窒化物層を形成することは難しい。このため,プラズマ浸炭やプラズマ窒化等の適用が検討されているが,これらは専用設備が必要である等の問題が存在する。これに対し,我々のグループは,高融点金属を鉄粉やグラファイト粉を主体とした混合粉末に埋め込み,窒素フロー中で加熱・保持するという,従来に比べて非常に簡便な熱処理で炭素や窒素の拡散が実現できることを見出した。最終年度となる平成26年度では,工業的にも広く用いられているクロム(Cr)めっきに注目し,この皮膜(膜厚約0.008 mm)を形成した低炭素鋼板に対して本法を適用して,炭素や窒素の拡散による皮膜部分の変化について調査した。なお,熱処理条件は窒素フロー中,1273 K,3.6 ksとした。 [1] 粉末を使用せず,窒素フローのみで熱処理した場合,XRD測定ではCrとともにCr2O3の回折ピークが検出され,電気炉内の残留酸素による皮膜の酸化が生じることがわかった。 [2] 鉄粉を加えずに,グラファイト粉とアルミナ粉だけから成る粉末を使って熱処理した場合,XRDパターンにはCrNに相当するピークが現れた。しかし,その表面硬さはCrめっきまま材とほとんど変わらず,その形成は表面付近に限定された。 [3] 鉄粉を含む混合粉末を使って熱処理した場合,鉄粉量にかかわらず,M7C3やCr2(C, N)の生成が示唆された。また,表面硬さも鉄粉量とともにHV = 2000程度まで上昇し,皮膜全体が炭化・窒化できることを確認した。
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