研究課題/領域番号 |
24560892
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
前田 秀一 東海大学, 工学部, 教授 (30580493)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 硫化物 / 銀薄膜 / 発色 |
研究概要 |
平成24年度は、銀薄膜の発色に影響する硫化物と影響しない硫化物を特定し、その性質を含めてデータベース化することにより、最終目標である発色機構解明の基礎を築くことを目的とした。 まず硫化カリウム水溶液に銀薄膜を浸漬すると、温度や濃度などの条件のコントロールは必要であるが、様々な色に発色させることができた。一方、硫化ナトリウム水溶液の場合は、温度や濃度などの条件を変えても、いわゆるいぶし銀以外の色はでなかった。さらに、硫化バリウムや硫化カルシウム水溶液の場合は、発色は全く認められなかった。実験を行った温度(50℃)におけるそれぞれの硫化物の水100gに対する溶解度は、硫化カリウム、硫化ナトリウム、硫化バリウム、硫化カルシウムで、それぞれ、8.7g(= 0.079 mol)、15.2g(= 0.0.172 mol)、0g(= 0 mol)、0g(= 0 mol)であった。硫化物中のイオウのイオン濃度が発色に大きく影響していると考えられる。すなわち硫化ナトリウム水溶液ではイオン濃度が高すぎて、従来のいぶし銀しか出すことができず、硫化バリウムや硫化カルシウム水溶液では反対にイオン濃度が低過ぎて発色に全く関与できなかったものと考える。 銀薄膜を様々な色に発色する硫化カリウム水溶液については、その温度、硫化カリウム濃度などをパラメータにした実験を行い、データベース化を行っている。 また、硫化カリウムは水中で加水分解していると考えられるが、加水分解生成物である硫化水素カリウムと水酸化カリウムの中、発色に関与するのは硫化水素カリウムであることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に記載のように、平成24年度の目的である、銀薄膜の発色に影響する硫化物と影響しない硫化物を特定しその性質を含めてデータベース化すること、に成功している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、平成24年度に発色剤として働くことを見出した硫化物ごとに、発色前後の銀薄膜の表面分析を実施する。薄膜表面の走査型電子顕微鏡(SEM)観察により、発色前後で薄膜表面の粒子の形状や大きさの変化を測定し、表面プラズモン共鳴吸収や構造色などによる発色の可能性を検討する。一方、X線光電子分光装置(XPS)による極表面の成分分析を行い、硫化銀などの薄膜が銀薄膜の上に形成されたことに起因する薄膜干渉の可能性についても検討する。これらの関係を解析した上で、銀薄膜の発色機構を解明する。 さらに銀薄膜の画像形成材料としての応用を検討する。具体的には、インクジェットプリンター(IJ)による書込みによって、画像形成を行う。濃度、温度などを監理した硫化物水溶液をインクとして吐出することにより、銀薄膜上にカラー画像を形成することを目標とする。この応用検討においては、発色機構に関する知見が、大いに役立つと考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備としては、銀粒子の形状や大きさを評価するための画像処理装置、画像表示材料としての応用を目指す上で印画手段となる産業用インクジェットプリンターなどが必要になる。 また、研究成果も順調にでているので、国内外での学会活動も活発に行う予定である。消耗品以外は、上記の設備費や学会などへの参加費に研究費を充当したい。 なお、平成24年度から平成25年度への助成金の繰越が発生したのは、当初50万円以上で購入しようと計画していた「銀ナノ粒子薄膜製造装置」の大部分を自作したことにより、その費用のほとんどを削減できたこと、試薬類の購入が予想以上に少なかったことなどによる。
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