平成24年度に銀薄膜の発色剤となる硫化物の成分を特定し、平成25年度に銀薄膜の発色機構の解明に注力しその主因が薄膜干渉にあると判断したので、平成26年度は、まず計画通り本技術の産業への応用を検討した。インクジェットプリンターを用いて、インクとなる硫化物の濃度、温度などをコントロールしながら、画像形成を行った。静電インクジェットプリンターを用いた際に、銀薄膜上に画像形成ができることがわかった。この画像形成は銀と硫化物との反応にもとづく色変化を利用している。 しかし、画像形成できたものの、画像を形成する色が継時的に変化していくという問題が生じた。産業上の利用を考える場合には、致命的な欠陥である。そこで、平成26年度には、当初は予定していなかったが、画像形成後の色の保存性の向上についても検討した。まず、継時的な色変化の原因は、銀と硫化物との反応が継時的に徐々に進行し、これにより薄膜干渉を引き起こす硫化銀層の厚さも変わっていくことにあると推定した。この考え方が正しければ、最初の段階で銀と硫化物を完全に反応させてしまえばそれ以上の変化はおきず、したがって継時的な色変化もないことになる。そこで、銀蒸着を用いてアルミ板上に20nmという薄い銀薄膜を形成し、これを硫化物(硫化カルシウムと硫化カリウムの混合物)と反応させた。本研究でこれまで行ってきた銀鏡反応でできる銀薄膜の厚さは200nm程度であったことから考えると、非常に薄い膜を形成したと言える。つまり、反応する銀の量を最小限におさえること(継時的に反応する余分な成分をなくすこと)により、色を一定に保とうという発想である。現状、一回の実験を行っただけであるが、継時的な色変化が緩和されたように見える。但し、結果次第では発色機構の再検討にも繋がる重要なことなので、再現試験および銀薄膜の厚みをパラメータとするさらに詳細な実験を計画している。
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