近年,組成傾斜材料の研究が盛んに行われており,バイオマテリアル,耐熱材料,電子材料など幅広い分野での応用が検討されている。本研究はこれまでほとんど報告例のない組成傾斜型粒子の作製法に関する研究であり,溶解度の異なる2成分を噴霧乾燥する単純なプロセスで,外殻が水酸アパタイト(HAp),内部にシリカを析出させた組成傾斜型球状中空粒子を作製するものである。 平成24年度はHAp/ケイ酸カリウム系組成傾斜型球状中空粒子の作製条件を明らかにし,さらに粒子1粒の圧縮強さを測定できる微小硬度計により機械的特性について評価した。 平成25年度は組成傾斜型粒子の水中安定性の評価および吸湿・放湿特性について評価を行い,粒子内部に水を取り込み,乾燥時には徐放可能であることを明らかにした。 平成26年度はHAp/ケイ酸カリウム系組成傾斜型球状中空粒子の土壌中での保水特性について検討を行った。その結果,組成傾斜型球状中空粒子無添加では短時間で土壌中の水分が減少し始めるが,保水粒子を添加することで8時間程度までは水分量は変化せず,土壌の保水能の向上が認められた。 平成27年度(最終年度)は保水粒子の繰り返し利用について検討を行った。HAp球状中空粒子と内部にシリカを析出させた組成傾斜型球状中空粒子とを比較したところ,HAp球状中空粒子では繰り返し使用により保水量は急激に低下する傾向が見られ,31サイクルで粒子は崩壊し保水能を示さなくなった。一方,HAp/シリカ組成傾斜型球状中空粒子では48サイクルまで水分を保持することができ,組成傾斜とすることで中空粒子に強度および耐水性を付与できることを明らかとした。
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