研究課題/領域番号 |
24560902
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |
研究代表者 |
青沼 昌幸 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発本部開発第一部機械技術グループ, 主任研究員 (10463051)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 接合・溶接 / 摩擦攪拌接合 / 異種金属接合 / 接合界面 / 金属組織 / 微細構造 |
研究概要 |
当該研究は,軽量金属材料の複合化による構造物への適用拡大を目的とし,脆弱となりやすい異種金属接合界面の改善を目指す.軽量化,高信頼性化に対応する異種金属接合法について,接合プロセスと金属学的な見地から検討し,開発するものである.高強度接合が困難な組合せでの異種金属接合において,金属元素を予め溶接法により接合予定位置に添加し,事前に金属組織の改善を行う.その元素添加位置を異種金属と摩擦攪拌接合することにより,異種金属接合界面での脆弱層の生成を抑制し,接合界面の強度を従来よりも向上することが可能な接合プロセスを開発することを目的としている.以上について平成24年度は以下の研究を実施した。 1、【溶接法での元素添加による組織改善効果の検討】Mg-Zn-Zr,Mg-Al,Mg-Al-Ca合金および純Mgを対象に,ビードオンプレート溶接,および元素添加を行った溶接部について,その元素分布と生成相の調査と評価を行い,母材組織の改善効果について検討を進めた. 2、【溶融処理プロセスの有効性評価】YAGレーザ溶接法を中心に,複数の処理プロセスによる特徴的な組織変化を評価し,プロセスによる有効性の違いについて比較評価を進めた. 3、【市販異種金属の摩擦攪拌接合特性の評価】異種高比強度合金間(市販Mg合金,Al-Si合金およびTi合金)の摩擦攪拌接合性を比較し,強度特性と破断形態を含め接合特性評価を行い,Mg-Zn-Zr合金およびAl-Si合金と,Tiとの異種金属接合特性と強度低下要因について明らかにした. 4、【接合界面の改善条件の基礎的検討と微細構造解析】市販母材および溶融処理プロセス材の異材接合界面について微細構造解析を進め,溶融プロセスでの組織改善による合金元素の固定効果と接合界面の微細構造へ及ぼす影響について基礎的な検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度においては,本研究の目的である異種金属接合界面の高強度化プロセスの開発へ向けた,母材組織の改善手法と,母材組織改善効果に関する金属学的解析と実証,および,現状での異種金属接合部の脆弱化要因の基礎的検討について研究を遂行した. 研究実施計画で示した,後に異種金属接合界面となる母材位置でのYAGレーザ溶融処理と元素添加に加え,エネルギー密度の異なるTIGアークによる処理を行い,有効性について比較評価した.その結果,Mg-Al合金ではMg-AlおよびAl-Mn系金属間化合物相,Mg-Zn合金ではMg-Zn系金属間化合物相を,溶融処理のみでも形成可能であることが判明し,異種金属接合において相手材と脆弱な化合物を生成し易い元素を,安定した金属間化合物として予め固定することが可能であることを明らかにした.また,合金元素の蒸気圧差を利用し,合金元素の一部の系外への排除も可能なことが判明し,溶融処理について,異種金属接合に有用な見解を得ることが出来た. 平衡状態図を根拠とした合金元素の添加効果については,予定の元素の他,Al,Siを含めた合計4種類の元素添加による組織改善効果の比較検討を行い,元素による効果の違いと現象について整理した.その結果,2種類については有用な効果が得られたが,効果が不十分な元素も存在し,これらについては生成自由エネルギーを考慮した複合添加を検討する必要があり,以降の課題となっている. また,添加元素を含む合金を先んじてTiと摩擦攪拌接合し,接合界面に生成する反応層について微細構造を含めた解析を行った結果,合金元素に違いによる異種金属接合界面の強度および組織形態差に関して一部を明らかにすることが出来た. 結果として,予定以上に明確化できた事項と,改善を要する事項が混在する結果となったが,研究目的へ向けては,おおむね順調に遂行できていると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの溶融処理,元素添加の効果に関するデータを基に,処理した板材を摩擦攪拌接合法によりチタンと接合し,これらの接合界面組織を詳細に調べ,金属組織および摩擦攪拌接合条件を,高強度な接合界面が得られるように最適化する.具体的には,平成24年度に行った溶融処理で,Znなどの高強度化を阻害する合金元素の固定に効果的だった元素の添加を中心に,異種金属摩擦攪拌接合に対する効果の解明を引き続き進める. また,摩擦攪拌接合での攪拌条件下における組織形成に,添加元素が及ぼす結晶粒微細化効果など,添加元素の種類や添加量および摩擦攪拌接合前の金属組織が,攪拌部と摩擦攪拌接合界面組織に及ぼす影響について,溶融処理により新たな相を生成したMg合金母材を,実際にTiと摩擦攪拌接合して検討し,明らかにする. 研究方法として,摩擦攪拌接合部の引張試験などの強度試験,接合部断面の組織観察,SEM-EDSによる元素分析を中心に行い,攪拌部および接合界面反応層の生成状態と接合強さについて接合条件ごとに比較検討する.これらの結果をもとに,接合前の金属組織および摩擦攪拌接合条件の最適化を行い,高強度接合界面が得られる元素添加条件および摩擦攪拌接合条件について検討を行う. 平成24年度で課題として残された,効果が不十分であった一部の合金元素添加については,有効であった元素との複合添加を行い,三元系金属間化合物をより優先的に生成させることを試みて,より強い効果が得られるかについて,最終的に実証することを目指す.
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の直接経費については,平成24年度での結果により,高強度な異種金属接合部を得るために有望であった純金属元素を,まず購入する.元素添加について,粉末,箔,ワイヤなどでの添加方法の比較を行った結果,それぞれの添加元素の形状により,各元素のマトリックスへの固溶状態と分散状態が若干異なることが判明している.これらのことが摩擦攪拌接合後の接合界面組織形成に及ぼす影響を明らかにするため,形状の異なる添加用元素のバルク材を用いる.また,各種の市販Mg合金を比較した結果,本研究での接合方法が効果的に作用する母材の目途が付きつつあるため,対象母材を一部絞り込み購入する. 元素添加時の熱源として,これまでYAGレーザを主に用いたが,平成24年度における検討の結果,TIGアークを用いた添加も十分に効果が得られ,場合によっては,広い面積を処理できるTIGアークがより有効であることが判明した.従って,計画の中心となっているYAGレーザによる添加だけでなく,TIGアークによる添加も行う必要が生じており,YAGレーザ用消耗品に加え,TIGアーク用消耗品,溶接用治具などの購入を行う.昨年度からの繰越額については,高強度のTiを摩擦攪拌接合する際に接合用ツールの破損が頻繁に生じることを考慮し,交換用合金工具鋼製ツールの購入に使用し,また,より高強度の超硬合金製ツールの購入により,有効確実なデータの取得に向けて利用する. 平成25年度は摩擦攪拌接合による接合部の改善検討と最適化が研究の中心となるため,接合部の作製を頻繁に行う必要が生じる.旅費については,学会への出席とともに,摩擦攪拌接合の実施のために大阪大学接合科学研究所へ出向く際に有効に使用する.その他の経費については,接合界面の微細構造観察の委託を中心に使用する.
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