研究課題/領域番号 |
24560902
|
研究機関 | 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター |
研究代表者 |
青沼 昌幸 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, その他部局等, 研究員 (10463051)
|
キーワード | 接合・溶接 / 摩擦攪拌接合 / 異種金属接合 / 接合界面 / 金属組織 / 微細構造 |
研究概要 |
当該研究は,軽量金属材料の複合化による構造物へ適用拡大を大きな目的として,脆弱となりやすい異種金属接合界面の金属組織改善による高強度化を目指し,軽量化と高信頼性化に対応可能な異種金属接合法を,接合プロセスと金属学的な見地から検討し,開発するものである.高強度界面組織を得るために,金属元素を接合部に添加し,異種金属と摩擦攪拌接合することにより,異種金属接合界面での脆弱層の生成を抑制し,接合界面の強度を従来よりも向上することが可能な接合プロセスを開発することを目的としている.平成25年度は以下の研究を実施した. 1【各元素添加方法の検討とその効果】前年度の結果を基に,母材への第三元素の添加方法について,板材,箔,線による単独・複合添加による効果の比較,および,アーク,レーザによる改善効果の比較を行い,効果の高い添加方法についてさらに検討を進めた. 2【母材組織が接合部強度に及ぼす影響】組織改善処理を得た母材を,異種金属と摩擦攪拌接合し,組織改善処理による異種金属接合界面での反応層の改善効果について検討した.また,接合界面での反応層厚さと構成元素が,接合界面強度に及ぼす影響について評価を進めた. 3【摩擦攪拌接合における適正接合条件】合金元素や組織の異なるマグネシウム,アルミニウム合金の異種金属摩擦攪拌接合性を比較し,接合条件が摩擦攪拌接合部組織形成に及ぼす影響,および,接合界面の強度特性との関係について評価を行い,接合部の諸性質について検討した.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度中に明らかにした内容を基に,平成25年度においては,異種金属との摩擦攪拌接合部での脆弱化抑制効果の増大を目指し,母材組織の改善手法の更なる改良を行い,摩擦攪拌による影響下での元素の挙動および相変化と,異種金属接合部強度との関連性についての評価検討を中心に研究を遂行した. 研究実施計画で示した,YAGレーザによる高温溶解による固溶体の生成は,元素の種類によっては困難であることも判明したが,その一方で,TIGアークによる溶融と元素添加が接合界面の強化に有効である例を見出すことができた.元素添加あるいは前処理により生成した相,また,すでに市販合金母材に含まれる相には,摩擦攪拌作用により再溶融するものと,構造が変化しないものとが存在し,これらの層を構成する元素の挙動が,異種金属との接合界面での反応層の生成に大きな影響を与えていることが分かった. 異種金属との接合界面に脆化層を生成する元素を含む母材の場合,TIGアークによる前処理によって,それらの元素が母材から大気中に排出され,接合部の脆化を抑制する効果を得られる可能性も示された.接合部の引張試験や硬さ測定により,接合界面の反応層は接合部の機械的性質に影響を及ぼしており,これらの層の生成状態を改善することで,接合部の諸性質も向上することを見出した. また,摩擦攪拌接合における接合条件は,接合界面の反応層の生成に大きな影響を及ぼし,接合速度などの入熱量とともに,接合ツールでの切削による新鮮面の生成状態が,接合部の性質と強度に影響を及ぼしていることが推測された.接合ツールによる切削の状態は,反応層の微細構造にも大きな影響を及ぼしていると考えられるが,これらについては不明な点も多く,今後の課題である. 以上のように,追加検討を要する部分が残されているが,明らかとなった内容も多く,おおむね順調に遂行できていると判断した.
|
今後の研究の推進方策 |
溶融処理,元素添加後により組織改善を行った母材を用いて,チタンと摩擦攪拌接合し,これらの接合界面組織を,TEM-EDS,EBSD,FIB-SEMなどにより詳細に検討する.これまでの検討により,高強度が得られる接合条件や,強度向上に有効と思われる合金元素について明らかとなっている.しかし,摩擦攪拌接合界面に生成する反応層の微細構造や,反応層生成の過程については検討が十分に行われていない.そこで,母材の組織改善と,適正な接合条件で得られた高強度接合界面について,構成元素や微細構造を詳細に分析し,接合部の諸性質に及ぼす元素の影響と,母材の組織改善処理が接合界面強度に及ぼす影響について,学術的に取りまとめる. 接合界面における合金層は,事前の溶融処理での元素単独,複合添加と接合条件のコントロールによって厚さや性質が変化するため,これらの微細構造と生成状態が接合界面強度に大きな影響を及ぼしていることが推測され,これらを詳細に検討することにより高強度が得られる界面状態と,溶融処理,添加元素との関係を明らかにする. また,これまでは接合体の作製を,主に大阪大学接合科学研究所の所有装置により実施していたが,ほぼ同等の機能を有する接合装置が実施機関に導入されたため,接合条件などをさらに詳細に検討することが可能となった.溶融処理でけでなく,固体で接合時に直接添加するなどの新手法についても検討を行い,同時に,硬金属側への元素添加が接合界面組織に及ぼす影響についても検討を行う予定である.
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度は,昨年度購入した金属母材や解析用物品などの消耗品を最大限に利用し,購入物品の抑制を計った.研究遂行を効率化するため,使用板材の絞り込みを行い,使用する板材のサイズの縮小することにより,昨年度よりも数の多くのサンプルの作製を行うことができた.よって,サンプル作成に要する板材の総量が減少した.また,接合用の冶具や,抑え金具は出来るだけ自作し,安価に状況に合わせた接合冶具を用意することが出来た.同時に,接合ツールの摩耗による交換頻度については,破損の少ない適正な接合条件を中心に接合体を作製することで,摩耗量や破損が減少し,購入量と購入頻度が圧縮された.また,当初予定の大阪大学でのサンプル作製を短時間で行い,他機関での接合サンプル作製も行ったため,旅費の使用も抑制された.論文投稿費用などについては,内部の資金で行ったため,使用額が圧縮された. 次年度は,主な研究遂行内容として,新規に導入した摩擦攪拌接合装置によるサンプル作製と,透過型電子顕微鏡などによる微細構造解析を主に行う.微細構造解析については,ナノビームによる電子線回折などの高精度で詳細な解析を要し,所持する装置では対応が困難であるため,観察用サンプル作製と観察を外部で行う予定である.同時に,対応が可能な範囲での微細構造解析での観察サンプル作製用品などが必要となるため,主にこれらの費用とする予定である.また,導入設備に対応した接合冶具,接合ツールの改良向上や,チタン合金などの硬金属の接合に耐えうる接合ツールなどが新規に必要となるため,次年度使用額は,これまでの内容をさらに詳細とし,新たな知見を得るための費用として使用することとなる.
|