研究課題/領域番号 |
24560910
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
柳楽 知也 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00379124)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 固液共存 / せん断変形 / その場観察 / バンド偏析 |
研究概要 |
液相中に結晶が分散している固液共存状態における変形現象は、金属材料における鋳造・結晶成長プロセスにおいて発生する欠陥(偏析、割れ)に深く関係している。遠心鋳造や高圧鋳造法において頻繁に観察される正偏析やポロシティを含んだバンド偏析は、固液共存状態において大きなせん断変形が生じたことが原因であると報告されているが、詳細なメカニズムは不明である。これは、通常の凝固後の組織観察では、固相と液相の独立した運動によって起こる変形過程を正確に把握することが出来ないからである。そこで粒子スケールで組織の変化過程を直接観察することのできる、放射光X線イメージングを利用したその場観察手法により、変形機構の解明を試みた。平成24年度では、Fe-2C合金、Al-15Cu合金を対象に、せん断変形速度や固相率が変形挙動に与える影響を中心に調べた。Al-15Cu合金において固相率が、約60%の場合、変形速度(50~3000 um/s)によらず、せん断領域近傍において、せん断力の印加によって固相同士の衝突および再配列により、固相率が低下している領域がバンド状に形成されることが明らかとなった。固相率が70%、変形速度が2000 um/sとした高固相率、高変形速度下では、固体同士の衝突により、固体間に間隙が形成されるが、周囲からの液相の供給が欠乏し、割れへと繋がる空隙が形成されることが明らかとなった。 金属の固液共存体の変形過程においてせん断応力を評価するための予備実験として、水-ポリスチレン粒子混合体に対してせん断力を与えた場合に生じる等方性応力(せん断方向と法線方向)を定量評価可能な装置の開発を行った。スピンドルによってせん断力(固相率50%、回転速度5rpm)を与えた場合、せん断応力および法線応力は、大きく増加し、偏析帯が形成された後、急激に低下し、その後一定の値を示すことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度の研究計画であるリアルタイムでのせん断変形による組織の変化とせん断応力を評価できる装置の開発に関して、計画通り、達成することができた。試料の厚さ、組成、セルの材質や構成、X線エネルギーなどの最適化により、Fe系、Al系などの高融点材料において粒子スケール(100-300 um)で固液共存体の変形挙動(固相粒子の運動)をその場観察可能な装置の開発に成功した。また、3000 um/sの高変形速度まで粒子スケールで固体粒子の運動を明瞭に観察することが可能であり、変形速度、固相率、固相の形状や大きさなどの初期条件がせん断挙動に与える影響を系統的に調べることが可能となった。本年度では、固相率や変形速度が変形挙動に与える影響について調べることができ、せん断ひずみや固相率の分布などの定量評価のためのデータ収集に成功した。一方、水-ポリスチレン粒子の混合体に対してせん断力を印加した場合、せん断応力、法線応力、せん断歪速度などの定量評価を行うことに成功した。つまり、マクロな組織とせん断応力、法線応力との関係を明らかにすることが出来た。水-ポリスチレン粒子混合体はモデル材料であるが、金属の固液共存体と粒子レイノルズ数は同程度であり、金属の固液共存体と類似した固相粒子の運動をすると考えられ、金属合金において実際に生じるせん断応力や法線応力が推測可能である。今後、水-ポリスチレン粒子混合体での実験を基に金属材料への応用が可能である。以上の研究成果を基に、4編の論文を執筆し、7件の学会発表を行うことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
バンド偏析を形成する固相率範囲および固相粒子の粒径(100-1000um)、固相粒子の形態(樹枝状から球状)、固相率がバンド偏析の大きさ、形成過程に及ぼす影響について明らかにする。鉄鋼材料およびAl系の場合、それぞれ核生成サイトとして微量のTiN、TiB2を微量に添加し、アーク溶解により微細な組織を作製後、固液共存領域の温度で再溶解させることにより、微細でかつ球状の粒子を作製する。Ar中、種々の時間で熱処理を行い、粗大化により粒径を制御する。金属が凝固する場合、樹枝状の形態を有したデンドライトと呼ばれる結晶が成長する。等軸的に成長した等軸デンドライトで成長させて、完全に固体にした後、再溶解する場合、球状に近い結晶となる。一方、等軸デンドライトで成長させて、完全に固体にしなければ、樹枝状の結晶が分散した固液共存状態の試料が作製できる。また、Fe系合金の場合、一方向にデンドライトが成長した柱状デンドライトを再溶解させた場合、液相を結晶内に内包した歪な形状の結晶を作製することにより、固相粒子の形態の影響を調べる。 また、水-ポリスチレン粒子混合体でのせん断応力を評価する実験技術を基に、X線イメージングによる金属合金の固液共存体のその場観察で用いた同様のセルを準備し、水-ポリスチレン粒子のせん断変形のその場観察により組織変化を観察すると同時にせん断応力、法線応力を測定する。つまり、時間発展におけるバンド偏析の形成と力学特性との関係を調べることで、モデル化への応用が可能な知見を得る。
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次年度の研究費の使用計画 |
せん断応力の測定に必要なトルクメータ、データ収集ユニットの購入を計画している。また、固液共存状態において変形現象をリアルタイムで観察するために試料を配置するセルの消耗品として、透明サファイヤガラス、BN(ボロンナイトライト)、焼結Al2O3板を購入する。また実験原料として金属地金、金属粉末を購入する。 国内旅費としては研究調査および研究成果報告のための国内学協会講演大会および実験施設である放射光SPring-8への実験旅費として使用する。国際会議(USA)において成果発表を行うための渡航費として使用する。 得られた成果を論文として投稿するために、必要な論文投稿料として使用する。
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