研究課題/領域番号 |
24560910
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
柳楽 知也 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (00379124)
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キーワード | 固液共存 / せん断変形 / その場観察 / マクロ偏析 / 割れ |
研究概要 |
固相と液相が共存している状態(固液共存状態)での変形は、鋳造プロセスにおいて発生する鋳造物の割れ、偏析といった鋳造欠陥と関係している。固相と液相が共存した場合、固相のみでは観察されない固液共存状態特有の変形挙動が発現する。例えば、延性に富む金属の固体と液相が共存した場合、その特性が脆性に変化し、変形を与えると割れを引き起こす。またせん断変形によって、固体と液体の領域が分離し、偏析が発生する。本研究では、放射光X線イメージングを利用して、粒子スケールで固液共存体のせん断変形のその場観察を行い、鋳造欠陥に繋がるせん断の形成機構の解明を行った。平成25年度では、Fe-C系合金を中心に高固相率で起こるせん断変形挙動の観察を行った。固相率が約98%、変形速度が10um/sの場合、固相同士がすべりを起こしながら、並進および回転運動を起こした結果、固相間隙が拡大し、せん断帯を形成した。一方、変形速度が1000um/sと早くなると、わずかな変形であってもせん断面の平行方向にほぼチャネル状に割れが形成された。つまり、偏析帯の形成において液相の流動が大きく関係しており、高固相率であっても、変形速度が低い場合、固体間隙が拡大しても周囲から液相が補給され、せん断帯がされることが明らかとなった。中程度の固相率の場合と比較して、固相粒子の回転運動が抑制され、せん断帯の幅は、半分程度まで低減した。また、特にせん断領域において固相同士の相互作用が大きくなった結果、幾つかの固相粒子のアスペクト比が変化しており、固液共存状態において、固相粒子の変形が観察された。また、水と粒子の混合体を利用したモデル実験においても、固相粒子の形態によって、せん断帯の幅が大きく異なることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、放射光X線イメージングを利用したその場観察により、固相率、固相粒子の形態などの初期条件や変形速度がせん断変形の挙動やせん断帯の形成に与える影響について調べることを目標とした。これまでの中固相率だけでなく、凝固末期の高固相率における固液共存体のせん断変形のその場観察を行うことに成功した。また、変形速度によって、同じ固相率でもせん断帯の形成の形態が異なることや、固液共存状態においても固相率が高い場合、固相粒子そのものが変形することを初めて明らかとなった。また、固相粒子の形態の影響については、水と粒子の混合体を用いたモデル実験により、明らかにすることができた。ただし、実際の金属合金を用いたその場観察の実験では、特に鉄鋼材料の場合、固相粒子の形態を制御することが困難であり、十分に検証することが出来なかった。以上の結果を踏まえておおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに放射光X線イメージングを利用して固液共存体の変形過程のその場観察を駆使して、組織形成の観点から、欠陥形成機構の解明を行ってきた。ただし、実際の凝固現象は、ミクロスケールの組織変化だけでなく、マクロスケールでの変形が連成しており、より統一的な広い観点で理解する必要がある。そこで、今後は、放射光X線イメージングを利用して固液共存体のせん断変形のその場観察と応力測定を組み合わせて、ミクロな組織変化とマクロな力学特性の関係性を明らかにする。具体的な手法として、X線イメージングによる固液共存体のせん断変形のその場観察装置に応力測定可能な装置を組み合わせ、組織観察とせん断応力の測定を同時に行う。また、固相率や固相粒子の形態が、せん断応力に及ぼす影響など、系統的な研究を行っていく予定である。
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