研究課題/領域番号 |
24560911
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
武部 博倫 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (90236498)
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キーワード | ケイ酸塩スラグ / リン酸塩 / レアアース回収 / 吸収特性 / 組成 / 溶出試験 / 赤外分光 / ガラス構造 |
研究概要 |
本研究の目的は、溶融プロセスでケイ酸塩系スラグ及びガラスの一部にレアアースを濃縮するための、スラグ組成の開発とプロセス条件の確立を行うことにある。 本年度は、リン酸塩、ケイ酸塩及びアルミノケイ酸塩系スラグ・ガラスの組成、特性と構造について研究を継続的に進め、各系の特徴に対する新しい知見が得られた。また非鉄製錬スラグの耐火物との界面反応や白金板との界面相互作用についても実験を行い、実用スラグの化学的特性への理解を深めた。実在するスラグや工業ガラスの組成について、ホットサーモカップル法を用い、均一融体形成温度の決定とその後の冷却過程でのガラス形成の有無を調べた。その結果、均一融体とガラスの形成が可能な模擬ガラスカレットとして、Na2O-CaO-SiO2-Al2O3 (NCSA)系を取り上げることに決定した。このNCSA系模擬ガラスカレットに希土類イオンとしてNd3+またはDy3+とP2O5を添加し、レアアース濃縮の可能性を検討した。Nd3+は前年度の研究から評価方法が確立しているイオンであり、Dy3+は希土類磁石の耐熱性向上のために不可欠な希少価値の高いイオンである。 前年度の研究から、NdがPO4四面体に優先的に配位する組成条件は[R2O+R'O]/[P2O5]≦1 (モル比)である。ここでRはアルカリ金属、R'はアルカリ土類金属である。希土類イオンの4f-4f軌道間電子遷移による吸収スペクトルを測定し、得られたスペクトルにおける各吸収帯の形状やピーク波長から希土類イオン周囲の局所構造を判断することが可能である。Nd3+を添加したNCSA系においても、上記の関係式が成立することを実験的に確認した。またDy3+を添加したNCSA系でも、主要な4f-4f軌道間電子遷移の6H15/2 → 6H9/2, 6F11/2遷移について評価し、同様な関係式の成立を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画どおり、基礎系となるリン酸塩、ケイ酸塩及びアルミノケイ酸塩系ガラスの特性と構造についての研究や非鉄製錬スラグの化学的特性についての研究を実施し、酸化物スラグ及びガラスへの理解を深めることが可能であった。実在するスラグや工業ガラスの組成に近いガラスカレットについて調べ、いくつかの工業スラグにおいては、リン酸を添加後の溶融過程で均一融体を得ることができないことが判明した。しかしながら、試行錯誤の実験を繰り返した結果、Na2O-CaO-SiO2-Al2O3系模擬ガラスカレットに対しては均一溶融とガラス形成が可能であることがわかった。また同系に希土類イオンとして初年度と同様のNd3+イオンに加えて、磁石の耐熱性を上げるために不可欠な添加イオンDy3+を添加し、4f-4f軌道間電子遷移による吸収スペクトルにおいて、希土類イオンの周囲にPO4四面体が優先的に配位する組成条件を見出すことが可能であった。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本年度の結果を基に得られた試料に対して、中性水または酸性及びアルカリ性水溶液への溶出試験を行い、溶出後の溶液に希土類イオンとリン酸イオンが優先的に溶出するか否かについて調査を行う。また希土類酸化物とリン酸を添加したリンケイ酸塩ガラスに対し、相分離や結晶化のための熱処理を施し、熱処理の微細構造に及ぼす効果を明らかにするとともに、その後の希土類イオンとリン酸イオンとの優先的な溶出挙動の有無についても実験研究を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画どおり研究は進んだものの予定よりも消耗品の購入を抑制して実験を滞ることなく進めることが可能であった。また最終年度には得られた研究成果を国内外の会議で発表することを予定しているため、平成25年度の予算の一部を、平成26年度の旅費と消耗品の費用に確保することとした。 平成26年度は最終年度であるため、引き続き精力的に実験研究を実施するとともに本研究の総括を行う。このため、国内外での会議での研究成果の発表や他の研究者との研究動向の調査と情報交換を積極的に行う予定である。このため本年度の予算は消耗品と旅費及び実験補助者への謝金で使用する計画である。
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