研究実績の概要 |
本研究の目的は、溶融プロセスでケイ酸塩系スラグ及びガラスの一部にレアアースを濃縮するための、スラグ組成の開発とプロセス条件の確立を行うことにある。 本年度は、前年度に見出した、均一融体とガラス形成が可能な模擬ガラスカレットとしてのNa2O-CaO-SiO2-Al2O3 (NCSA)系を取り上げ、希土類イオンとしてEu3+を、レアアース濃縮剤としてP2O5を添加した。Eu3+の4f-4f軌道間電子遷移による蛍光スペクトルを評価し得られた各電子遷移の相対強度比やピーク波長から、本申請者の過去の研究を基に、Eu3+周囲の局所構造の推定を行った。同系ガラスの等温保持による熱処理を行い、熱処理に伴う相分離・微結晶析出等の微細構造の変化から、レアアース濃縮の評価を行った。SEM-EDXによる分析から、熱処理に伴い、Euとリン酸が相対的にリッチなナノサイズの析出物が形成されることを見出した。 研究期間全体での成果は以下のとおりである。希土類イオンの吸収及び蛍光特性の評価により、リンケイ酸塩スラグにおいて、代表的なレアアースNd, Dy, EuがPO4四面体に優先的に配位する組成条件は[R2O+R'O]/[P2O5]≦1 (モル比)である。ここでRはアルカリ金属、R'はアルカリ土類金属である。赤外分光によりこの組成条件でスラグ及びガラス中に存在する、特徴的なPO4四面体のネットワーク構造を理解した。また組成設計したリンケイ酸塩スラグに対し、浸出条件の最適化によりレアアースとリン酸を優先的に抽出することができた。さらに同系スラグに熱処理を施すことで希土類とリン酸がリッチな領域の微細構造を制御可能であった。これらの成果は、熔錬プロセスにおいて、多成分系酸化物スラグ及びガラスでレアアースをある微視的領域に濃縮しその後の浸出課程で優先的に抽出するための組成設計に関して有用な知見となる。
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