研究課題/領域番号 |
24560914
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 鈴鹿工業高等専門学校 |
研究代表者 |
生貝 初 鈴鹿工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (60184389)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | バイオフィルム / 鉄 / 微生物腐食 / 緑膿菌 |
研究概要 |
平成24年度、バイオフィルム(BF)形成菌である緑膿菌PAO1株(PAO1)を用いて、鉄鋼材料表面に対する細菌の吸着やBF形成について検討し、以下の研究成果が得られた。 これまで炭素鋼SS400やステンレス鋼SUS304 、スズ、亜鉛など各種金属試験片の表面に形成されたPAO1のBFについてクリスタルバイオレットで染色し調べていた。今回、栄養豊富な普通ブイヨンや無機塩類とグルコースのみを成分とする貧栄養の鉄フリー人工培地を用いてPAO1を培養し、ポリスチレン製96穴マイクロプレートのV底ウエル内壁のBF形成量を調べた結果、どちらの培地を用いても鉄イオンがPAO1のBFの成長を高めることがわかった。すなわち、普通ブイヨンや鉄フリーの人工培地へ硫酸鉄を添加すると、硫酸鉄濃度の増加に伴ってBFが成長し、50マイクロモル付近で最大になった。ところが硫酸鉄をさらに培地に加えていくと、BFの成長は抑制されることがわかった。このことからBFの成長を高める鉄イオンの作用に至適濃度が存在することもわかった。一方、鉄以外の金属イオンでは顕著なBFの成長は観察されなかった。また、本科研費によって蛍光顕微鏡を購入し種々の金属試験片表面に形成されたPAO1のBFの形態学的観察を行った。SS400、ステンレス鋼SUS304、ガラス基板をそれぞれ浸漬した鉄フリーの人工培地でPAO1を培養すると、SS400表面にのみBFの形成が認められた。この結果からSS400表面から溶出された鉄イオンがBFの形成に関与することが示唆された。さらにこれらの研究成果を平成25年3月に開催された第86回日本細菌学会総会において発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鉄鋼材料の表面における緑膿菌PAO1株(PAO1)のバイオフィルム(BF)易形成機構を解明するために、鉄イオンがPAO1のBFの成長を高める作用があるかどうかを研究課題に設定し、当初の計画どおりに概ね順調に研究を進めることができた。 研究を遂行するうえで、貧栄養の人工培地でPAO1を培養しBFが形成されるかどうかが律速になったところであった。鉄を含まないさまざまな人工培地を探索し、無機塩類とグルコースのみを成分とする培地(M9最少培地とspizizen培地)で培養すると、BFが形成されることがわかった。この鉄フリー人工培地を用いて炭素鋼SS400やステンレス鋼SUS304、スズの試験片表面におけるPAO1のBF形成を調べ、SUS304やスズに比べてSS400表面にBFが形成されやすいことがわかった。また、さまざまな金属塩を人工培地に加えてPAO1のBF形成を調べることができた。その結果、鉄イオンのみにBFの成長を高める作用があることがわかった。また、BFを蛍光顕微鏡で観察する際、蛍光標識抗体を使ってBFを観察する方法が一般的であるが、今回、蛍光標識抗体を用いなくても基板上に形成されたBFを観察することができた。これにより試料調製や顕微鏡操作に習熟していない実験者でも簡単に実験を行えるメリットがあった。今後、蛍光顕微鏡を用いて基板上のBFの形態観察を頻繁に行う予定であるので、蛍光標識抗体を使わない観察は有効な手段として期待できる。 一方、鉄イオンによってPAO1からオートインデューサー(AI)の産生誘導が起きるかどうか検出することができなかった。その理由は薄層クロマトトグラフィの検出感度が低かったためである。次年度も引き続きAIの産生誘導が起きるかどうか検討を行う。
|
今後の研究の推進方策 |
(1)研究代表者は、炭素鋼SS400表面にBFが形成されやすいのは、SS400から培地中に鉄イオンが溶出されやすいからではないかと推測している。そこでSS400から培地中へ溶出する鉄イオン量を測定する。さらに溶出された鉄イオンが、BFの成長を高める濃度として平成24年度の研究で求めた値(50マイクロモル)と一致するかどうか比較検討する。 (2)防錆処理あるいは未処理のSS400を浸漬した人工培地でPAO1を培養し、防錆処理したSS400の方が未処理に比べてPAO1のBF形成や微生物腐食が抑制されるかどうか調べる。SS400表面の防錆処理はリン酸亜鉛皮膜化やリン酸鉄皮膜化によって行う。 (3)種々の濃度の鉄イオンを加えた人工培地に各種金属試験片を浸漬してPAO1を培養し、本来BF形成が起きにくい金属試験片でも培地に鉄を添加するとBF形成や腐食が起きやすくなるかどうか調べる。この実験によって鉄以外の金属の微生物腐食においても遊離鉄イオンが関与しているかどうかを明らかにできる。 (4)前年度に引き続き鉄イオンによってPAO1からオートインデューサー(AI)が産生されるかどうか調べる。 (5)基板上に形成されたBFは凹凸構造をしている。金属基板上でBFが形成されると、BF直下の金属部分が嫌気的になり、その結果酸素濃淡電池が生じて金属腐食が起きるのではないかと多くの研究者が推測している。もし鉄イオンがBFの厚さや横方向への成長を高める作用があるならば、BFは凹凸の激しい不均一構造になることが予想される。そこで鉄イオン存在下におけるPAO1の運動性について調べる。さらにBFの厚さの測定や金属表面で形成されたBF構造の3次元可視化も行い、酸素濃淡電池形成の可能性があるかどうかを検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は直接経費として500,000円が交付される予定である。研究費の内訳は、物品費が450,000円、旅費が50,000円である。物品費は、試薬、プラスチック製品、ガラス製品、金属試験片などの購入に使用する予定である。旅費は、研究成果の発表などに要する経費として使用する予定である。
|