最終年度は以下の研究成果を得ることができた。 (1)グルコースは炭素鋼表面において緑膿菌がバイオフィルム(BF)を形成するために必要な物質であることがわかった。また、グルコースが炭素鋼表面に付着する性質があることを示唆する実験結果も得ることができた。もしグルコースのコンディショニング・フィルムが炭素鋼表面に形成されるならば、緑膿菌はこの濃縮されたグルコースを利用するために炭素鋼に結合することが考えられる。 (2)多くのグラム陰性菌のquorum sensingを制御するauto inducer(AI)として働く3-oxo-C12-HSL(C12-HSL)とC4-HSLが硫酸鉄を含む培養液中で産生されているかどうか調べた。その結果、硫酸鉄が無添加であってもC12-HSLとC4-HSLの産生が認められ、硫酸鉄を75μMまで添加してもこれらAIの産生量は変化しなかった。ところが硫酸鉄を100μM添加すると、C12-HSLの産生は変化しなかったが、C4-HSLの産生は減少した。 (3)BFが表面に形成された炭素鋼をSPring-8の放射光を用いてコンピュータ断層撮影を行い、撮像画像をもとに炭素鋼を3D可視化したところ、BFの直下に腐食が発生していることがわかった。BFによるMICは酸素濃淡電池の形成が原因と考えられ、嫌気度が高いBFの凸部分の真下で金属イオンが溶出し腐食が起きるといわれている。しかしながらMICはBFの凹部分の近傍で発生していた。さらにMICによってBF内に鉄イオンが溶出し培地に含まれるリン酸と反応して藍鉄鉱が生成されることがわかった。 (4)日本鉄鋼協会他5学会で研究成果を発表した。論文は、Bacterial adherence & biofilm誌(放射光による炭素鋼表面に形成されたバイオフィルムと微生物腐食の3D可視化(生貝 初他7名、28巻、2014、査読有、掲載受理))に発表した。著書として、バイオフィルムとその工業利用(兼松秀行,生貝 初,黒田大介,平井信充、2015年3月、米田出版)を上梓した。
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