研究実績の概要 |
本年度も昨年度から引き続き,基板として市販のガラスフィルター(GF)を使用した。感温性高分子の足場となるシランカップリング剤として,本年度は3-ジメチルアミノプロピルメチルジエトキシシランからアリルトリエトキシシランに変更した。これにより,シランカップリング剤にかかるコストは約1/7にまで減少させられた。そして,アリルトリエトキシシランからでもポリN-イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)の被覆は可能であった。また,架橋剤であるN,N’-メチレンビスアクリルアミド(BIS)を用い,高分子合成を行った結果,その添加量の増加に伴いPNIPAM固定化量は増加し,BISを5 wt%添加することで,PNIPAM固定化量は約1 wt%にまで増加させられた。 平成24年度に作製した膜透過装置を用い,メチルオレンジ(MO)透過速度の温度依存性を検討した。実験条件は供給側と透過側のMO初濃度をそれぞれ100と0ppm,水溶液の流速0.5L/minとした。MO透過量をUV-Vis(日本分光V-630)で定量した。GF単独では,MO物質移動係数は2.9×10-7 m/sであった。合成した膜の場合,相転移温度より高い40℃では物質移動係数は1.9×10-7m/sで,未修飾のGFとほぼ同程度であった。一方,25℃では4.5×10-9m/sと2桁程度小さくなった。この結果は,高温ではPNIPAMの体積収縮により高分子鎖間の空隙が広がってMOが透過しやすく,低温では体積膨張により高分子鎖間の空隙が狭まってMOが透過しにくくなったことを示している。架橋剤を添加した場合,BISの添加量の増加に伴い,透過速度が遅くなり,その傾向は低温で特に顕著に現れた。本年度の当初の予定では,中空糸への感温性高分子の固定化も計画していたが,そこまでは実施できなかった。次年度以降,引き続き実施する予定とする。
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