研究課題/領域番号 |
24560921
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
東 秀憲 金沢大学, 自然システム学系, 助教 (40294889)
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キーワード | 超臨界流体 / 急速膨張法 / ケトプロフェン / 微粒子化 / レーザーアブレーション / 炭素 |
研究概要 |
本研究では,既往の研究において,低溶解度条件下で数百ナノメートルオーダーの微粒子凝集体の生成が報告され,高溶解度条件下で数ミクロンオーダーの結晶性粗大粒子の生成が報告されているケトプロフェンを採用した.RESS法による微粒子の生成において,超臨界二酸化炭素に対する溶質の溶解度が,生成する粒子の形態に与える影響について検討するために,走査型電子顕微鏡(SEM)による粒子の形態観察と粒度分布の評価,モデル式を用いた考察,光散乱式粒子計数器(OPC)による粒度分布測定を行った. まず,SEMによる観察結果より,既往の研究の間の中間程度の溶解度において微粒子と粗大粒子が混在した状態を観察できた.これにより,溶解度の増加に伴い,粒子生成のメカニズムが変化し,生成する粒子が,微粒子から粗大粒子へと変化していることが示唆された.この現象を理論的に考察するために,拡散律速と表面反応律速を仮定した粒子生成・成長モデルを用いて,粒子径を算出した.この結果,低溶解度では拡散律速状態が支配的となり,高溶解度では表面反応律速状態が支配的なると仮定することで,溶解度によって微小粒子から粗大粒子へと変遷する粒子径の実測値の変化を定性的に表現可能であった.さらにOPCを用いた粒度分布の計測において,SEM画像では計測できない微小粒子が存在する可能性が示唆され,超微粒子生成の可能性が示された. また,超臨界流体を用いた新たな材料創製手法として,超臨界レーザーアブレーションの手法を用い,可視窓付きセルにより,超臨界二酸化炭素雰囲気下において,カーボンターゲットへのレーザー照射実験を行った.低圧および高圧条件化では,大気圧下でのレーザーアブレーション同様にアモルファス凝集体が得られたのに対し,臨界密度を呈する圧力条件において,結晶性の高い球形ナノカーボン微粒子が多数生成されることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は,既往の研究による報告例で,超臨界溶体急速膨張法により生成した微粒子の粒径に大きな差のあったケトプロフェンを対象に,溶解度条件を変化させて実験を行い,粒径変化に及ぼす溶解度(過飽和度)の影響について考察するとともに,粒子生成メカニズムの変化について検討を行った.回収部に恒温槽の水を循環させることで,粒子生成部の温度制御を可能にしたことで,安定して微粒子を生成できるようになった.これまで,生成微粒子の粒径には溶解度(過飽和度)が大きく影響しており,同じ圧力での実験においては温度が高く,溶解度が大きい条件でより微小な粒子が生成されていた.しかしながら,同一温度において圧力を上げて溶解度を増加させた場合には,溶解度(過飽和度)が大きくなるにつれ得られる粒子径も増大し,特に多数の微小粒子を得るために溶解度を極端に増加するような温度,圧力条件に設定したところ,微小粒子の数が増えるのではなく,結晶状粗大粒子が出現することが判明した.ケトプロフェンにおいては,微小粒子と粗大粒子の生成条件の境目としては,溶解度で10-6程度以上であり,モデルによる計算でも,この溶解度領域において粒子生成のメカニズムが拡散律速から表面反応律速へと変化することが示唆された.このように,急速膨張法における粒子生成条件の検討およびメカニズムの提案ができた. 一方,新規無機微粒子材料創製場として超臨界流体中でのレーザーアブレーションによるカーボン微粒子の創製実験においては,新たに実験装置を作成し,様々な条件においてカーボン微粒子の生成を試みた.再現性や得られた微粒子の物性評価等の課題はあるものの,臨界点近傍において,結晶性の高い球形ナノカーボン微粒子が得られる可能性が示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画においては,主に相状態の把握および溶解度の蓄積を念頭に計画を行っていたが,既往の研究例等を参考に,超臨界流体の新規微粒子材料創製場としての可能性の探索のため,有機化合物微粒子創製法としての超臨界溶体急速膨張法および無機化合物微粒子創製場としての超臨界レーザーアブレーションの2つを軸に,それぞれの手法により,データの再現性を確認するとともに,微粒子生成の最適条件を探索し,超臨界流体の新規材料創製場としての基盤を構築する. 超臨界溶体急速膨張法においては,主に溶解度(過飽和度)の影響について検討を続け,溶質を変えた場合には必要に応じて溶解度の測定を行う.特に2つの粒子生成メカニズムが交差する領域付近(中程度の溶解度領域)でのデータを重点的に測定する.さらに,粒子生成に伴いバルク濃度が変化(減少)するようなモデルを考慮することで,粒径変化を定量的に表すことのできるモデルを提案する. 超臨界レーザーアブレーションにおいては,収率の向上のため,回分型の装置を流通型にすること,また,ターゲットの工夫を行うとともに,得られた微粒子の凝集を防ぐため回収法の改善を行う.ターゲットはこれまでのグラファイトカーボンプレートだけでなく,グラファイト粉体を超臨界二酸化炭素中に分散させ,レーザーを照射する手法の適用を検討する.また,回収法についてはフィルタ捕集と急速膨張による凝集の抑制とを念頭に検討を行う. いずれの方法においても,いくつかの温度,圧力条件においてデータの蓄積を行い,微粒子生成のための最適条件の検討を行うとともに,得られた粒子の物性評価および粒子生成メカニズムの提案を行い,超臨界流体の新規微粒子材料創製場としての基盤構築に貢献する.
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次年度の研究費の使用計画 |
当初の計画では,急速膨張法およびレーザーアブレーションによる有機・無機微粒子生成実験とともに,溶解度測定用の装置の開発および実験を進める予定であったが,超臨界流体の新規微粒子材料創製場としての応用を考えた場合,急速膨張法およびレーザーアブレーションにより得られた微粒子の結果の解析およびメカニズムの解明の方を優先した方が良いと判断し,溶解度測定用に見積もっていた分の予算を次年度に繰り越すこととしたため.また,本年度OPCによる計測において,SEMでは観測できなかった超微粒子の生成の可能性が示唆されたが,通常の粒子計測装置では,二酸化炭素が邪魔をして,粒子数をうまくカウントできないことが分かったため,シースに二酸化炭素を流通させるほか計測装置の改良が必要である.改良には最終年に予算として申請した分では不足することが考えられるため,一部予算を次年度へ繰り越すこととした. 溶解度測定用装置の開発および測定は必要に応じて適宜行う予定であるが,前年度同様に,急速膨張法およびレーザーアブレーションにより生成した微粒子の解析を優先して行う予定である.繰越費用は新規溶質材料等の購入および消耗品の購入など装置のメンテナンスに使用する.また,上述のように,本年度OPCによる計測において,SEMでは観測できなかった超微粒子の生成の可能性が示唆された.測定過程において,通常の粒子計測装置では,二酸化炭素が邪魔をして,粒子数をうまくカウントできないことが分かったため,シースに二酸化炭素を流通させるほか計測装置の改良が必要であるため,粒子計測装置の改良のためにも使用する.さらに,超臨界二酸化炭素に対する溶解度および相互作用の解析に使用する現有備品であるFT-IRの消耗品の購入にも一部使用する予定である.
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