超臨界溶体急速膨張法は,超臨界状態にある溶媒に溶質を溶解させた後,その溶体をノズルを介して急速に減圧・膨張させることで高い過飽和度を発生させ,微粒子を得る方法である.この方法により得られた微粒子の粒径や結晶形態などの物性には,超臨界状態の条件が大きく影響しており,これまでに温度・圧力の影響が検討されてきた.その結果,特に超臨界流体中の溶質濃度が,過飽和度を決定する重要な因子であり,得られる微粒子に大きく影響することが明らかとなった.しかしながら,既往の研究では溶質濃度を制御するのに,温度あるいは圧力のいずれかを固定して行っており,同程度の溶質濃度を呈する条件における,温度・圧力を同時に変更した場合の検討は行われていない.また,昨年度までの検討により,溶質濃度により得られる微粒子の形態が変化する可能性が示唆されている. 本年度は,温度35,45,55℃の条件において,圧力を7~14MPaまで変化させて実験を行った.その結果,比較的大きな結晶状粒子と微小な球形粒子の生成が確認された.結晶状粒子は数ミクロン程度まで成長しており,同じ溶質濃度でも温度の高い条件(低密度)において生成した粒子のほうが粒径が小さくなった.なお,球形粒子は結晶成長に消費されなかった過飽和状態のケトプロフェンが,フィルタ表面において凝縮したものと考えられる.さらに,温度が35℃の条件では溶質濃度の増加に伴い球形粒子が観察されなくなり,結晶成長が促進されたのに対し,温度が45と55℃の条件では,溶質濃度を増加しても球形粒子が観察され,結晶成長が阻害された.また,粒子生成過程の解析のため,ノズル内における状態量変化と核生成速度を計算した.求めた核生成速度からノズル出口までの積算により核生成量を求め,生成粒子径を算出し,実験値の球相当径と比較したところ,計算値は実験値のおよそ1/3程度となった.
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