研究課題/領域番号 |
24560935
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
久保 正樹 東北大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (50323069)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 超音波 / ラジカル / 重合 / 分子量 / ポリN-イソプロピルアクリルアミド |
研究概要 |
本研究では,新規なポリマー合成法である超音波ラジカル重合法において,超音波照射条件を精緻に制御することで分子量分布の極めて狭いポリマーを精密合成するプロセスを構築し,微小な温度変化に対してシャープに応答する感温性ポリマーを設計・作製する。具体的には,感温性を有するポリN-イソプロピルアクリルアミドを対象として,反応中に超音波照射条件を変更する方法を用いて,分子量分布の指標である分散度を1.5以下に保持しつつ分子量を所望の値に設計可能な合成プロセスを確立することで,シャープな感温性を有するポリマーを作製する。 平成24年度は、はじめに、ポリマー合成実験における操作因子と生成ポリマーの分子量の関係を検討した。ポリN-イソプロピルアクリルアミドに関しても、溶媒にエタノールと水の混合物を用いることによって、開始剤および触媒を使用せずに、超音波照射によってポリマーを合成できることを明らかにした。次に、溶媒組成について検討を行い、ポリN-イソプロピルアクリルアミドが溶解できないような、エタノールと水の割合が50vol%:50vol%の場合には、分子量分布の狭いポリマーを合成することはできず、ポリN-イソプロピルアクリルアミドが溶解できる、エタノールの割合が30vol%の場合に、分子量分布の狭いポリマを獲得できることを明らかにした。超音波強度の影響について検討を行い、超音波強度が高いほどポリマー合成速度が高いことを確認した。さらに、反応温度について検討を行い、反応温度が低いほどポリマー合成速度が高いこと、すなわち、通常の反応とは異なり温度依存性が負であることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、平成24年度に、1)操作因子と生成ポリマーの分子量,分散度との相関、2)生成ポリマーの分子量,分散度と感温性との関係の解明、を行うこととした。このうち、1)については、計画通り、種々の操作因子と生成ポリマーの特性との相関を検討することができ、さらには、平成25年度以降に行う予定であった「超音波照射によるポリマー合成の機構の検討」についても実施することができた。すなわち、当初の計画以上に進んでいると言える。一方、2)については、現在検討を進めている段階である。すなわち、当初の計画よりも若干遅れて進展している。 以上のように、計画のうち、1)つは計画以上、2)はやや遅れている、という状況であるため、全体としては概ね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、以下に示す研究を推進する方策である。 <3.マルチステップ超音波照射法の有効性の検討>先ずは本手法の有効性を実証するために、手動にて反応期間中に超音波強度を変更してポリマーを合成し、超音波強度一定の場合と比較する。より複雑な超音波強度のマルチステップ変更方法については、以降検討する反応機構ならびに速度論モデルによるシミュレーションに基づいて、構築を行うこととする。 <4.超音波照射によるポリマー合成の機構の検討>超音波照射下では、溶媒やモノマーが分解してラジカルが生成するとともに、ポリマーが分解してポリマーラジカルが生成する。これらのラジカルは反応機構のカギとなるため、それらの挙動を追跡することが重要である。ラジカル発生については、溶媒組成の成果からその一部が達成されており、引き継き検討を重ねる。次に、モノマーを含まず、代わりに生成ポリマーのみを含む溶液に対して超音波を照射し、ポリマー分解のみが生じる実験を行なう。以上の知見ならびに平成24年度項目1の結果を基に、ポリマー合成機構の検討を行う。 <5.超音波照射条件最適化のためのポリマー合成速度論モデルの構築>超音波強度変更方法のバリエーションは非常に多い。このため、実験的な検討は非常に煩雑である。そこで、超音波強度依存性を考慮したポリマー生成速度論モデルを構築した上で、最適操作条件をシミュレーションによって明らかにする。 <6.分子量、分散度設計プロセスの構築>これまでの実験結果ならびに速度論モデルによるシミュレーションを駆使して、分子量および分散度の制御を試みる。得られたポリマーの感温性を評価し、シャープな感温性を有するポリマーが生成する操作条件を探索する。以上の実験および速度論モデルにより得られた結果を基に、シャープな感温性を有するポリマーを合成するプロセスの構築を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の研究費については,次年度使用額は生じているが,平成24年度3月に執行済である。 次年度の研究費の使用計画について述べる。超音波照射によるポリマー合成の基本的な実験は,現在所有する超音波発生器で可能であるが,超音波強度を変更プログラムに従って操作するには,超音波強度をプログラム可能な制御装置を要するため,システム構築に向けてファンクションジェネレータおよびデジタルマルチメータを新たに購入する予定である。合成したポリマーの特性を,分子量分布と感温性の2点から評価する。分子量分布については,測定に必要なGPCを既に有している。一方,感温性の評価には,分光光度計を用いるが,資料の温度制御のためプログラム機能付き恒温セルホールダを新たに購入する計画である。その他,消耗品として,既存の超音波発生器にはプローブやチップなどが必要である。GPCには分析カラムやランプなどの消耗品を要する。試薬費は,実験および分析に必要となる。フラスコやピペットなどのガラス器具類,フィルターやシリンジなどのプラスチック器具類は,通常の実験操作に必要な消耗品である。 旅費に関しては,成果発表を目的として日本の化学工学会などの学会に参加するための1名分の国内旅費を,また、アメリカ化学工学会に参加するための国外旅費を予定している。また,本研究で得られた成果を英語学術論文として発表するための投稿費を計画している。
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