アラームの洪水や連鎖アラームなどの有害アラームが引き起こすヒューマンエラーに対するアラームサプレッション(アラームの洪水発生時に新規発報アラームを抑制)、畳み込み(同一のアラームを一つのアラームに集約して表示)やシェルビング(重要度の低いアラームを一時的にオペレータから見えなくする)などの論理アラーム処理の抑制効果を異常診断シミュレーションにより評価した。その結果、単一のプラント異常から複数のアラームが連鎖的に発報する連鎖アラームが、ヒューマンエラー発生の原因となることが示唆された。そこで、プラントアラームシステムの適正化を目的に、ドットマトリックス解析を用いたプラント運転データからの連鎖アラーム抽出法を提案した。ドットマトリックス解析は、バイオインフォマティクス分野で、DNAやタンパク質配列の配列アラインメント手法の一つとして広く用いられている。提案手法では、まずプラント運転データに記録された発報アラームを、それらの発報順に並べたアラーム配列に変換する。つぎに、ドットマトリックス解析により、アラーム配列中の発報パターンが一致する部分配列を特定し、それらを連鎖アラームとして抽出する。最後に、レーベンシュタイン距離に基づき類似する連鎖アラームをグルーピングする。プラント運転データの中から連鎖アラームを抽出し、類似度に基づき少数のグループに集約すれば、連鎖アラームの効率的な削減に寄与できる。また、連鎖アラームの削減効果を定量的に把握できるため、費用対効果の観点から連鎖アラームの削減対策に優先順位をつけることもできる。提案法はプラント情報が不要であるため、異なるプラントにもそのまま適用できる。今後、様々な化学プラントへの適用が進み、アラームシステムの適正化を通じたプラントオペレーションの改善に役立つことが期待される。
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