研究課題/領域番号 |
24560945
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
西山 覚 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (00156126)
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研究分担者 |
市橋 祐一 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20362759)
熊谷 宜久 神戸大学, 工学(系)研究科(研究院), その他 (60437457)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | バイオアルコール / 酸塩基触媒 / 耐水性触媒 / 水素移行反応 / 不飽和アルコール / 不飽和カルボニル化合物 / イオン液体 / 疎水性 |
研究概要 |
近年のバイオマス資源有効活用やバイオリファイナリー技術の開発に伴い,バイオマス由来のアルコールを原料とする化学合成の必要性が高まっている.バイオアルコールは,発酵プロセスで生産されるため大量の水を同伴している.そのアルコール含有資源を,これまでの石油化学プロセスで用いられている固体酸塩基触媒を用いたプロセスに使用すると,水分子が触媒上の活性点であるルイス酸点を強く被毒し触媒作用を容易に阻害する.そのため,含水アルコールから水を除去するかあるいは,水共存下でも機能するルイス酸触媒を創成することが必要となる.含水アルコールから水を除去するために蒸留などのエネルギー消費型の分離プロセスを用いると,折角のカーボンニュートラルであるバイオマス原料の利点が失われ,化石燃料を用いる方法と同じく大量の炭酸ガスを放出する.一部膜分離法などが実用化されているが,アルコール生成の培養液中のアルコール濃度は高々20 %以下であり,80 %以上の主成分の水を除去する低エネルギー消費型の分離プロセスは実用化されていない.従って,水共存下でも十分に機能する耐水性固体酸触媒が実用化できれば,含水アルコールを化成品原料として,これまでの石油化学プロセスに使用することが可能である.本研究では,担持酸化ジルコニウム触媒を用いた2級アルコールを還元剤とした不飽和カルボニル化合物の選択還元反応に含水アルコールを活用することを想定して,耐水性触媒の開発を目指した.多孔質担体としてメソ細孔を有する疎水性であるMCM-41を選択し,酸化ジルコニウムを分散担持した.アルコールによる選択還元活性は高く,ほぼ選択率100 %で目的の不飽和アルコールを与える.還元剤の2級アルコールに水を加えると,急激に活性が低下するので,触媒を疎水性の材料で修飾することで,水を排除しながら反応を進行させる反応系の構築を目指した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
メソポーラスシリカの1つであるMCM-41(SiO2組成)を担体に選定し,ジルコニウム酸化物をその表面に分散担持した(Zr/MCM-41).MCM-41自体も表面は疎水性であるが,液相反応の場合,メソ細孔内には水分子を含んだ溶媒が容易に侵入するため十分な耐水性を得ることは困難であると考えられる.本触媒を用いて,不飽和アルデヒドであるシンナムアルデヒド(PhCH=CHCHO)と還元剤の2-プロパノールを液相で反応させた.水非共存下では,高活性で目的生成物のシンナミルアルコール(PhCH=CHCH2OH)が得られたが,わずかな量の水(1-5 vol%)を添加すると,著しい活性の低下が起こりシンナミルアルコールは生成しなかった.これは,共存する水分子が表面のZr4+イオンと強く相互作用するためである.水分子を表面Zr4+イオンとを乖離させるために,メソ細孔内に疎水性のイオン液体を充填した.あらかじめ細孔容積を測定し,細孔容積分のイオン液体をZr/MCM-41触媒に浸漬した.浸漬後の触媒のBET表面積測定および粉末X線回折測定結果から,イオン液体はメソ細孔内を十分に満たしていることが確認された.得られた触媒試料の疎水性を評価するために水蒸気の吸着実験を実施した.イオン液体で修飾前の触媒に比較して,修飾後の試料では水蒸気の吸着量が大きく減少した.イオン液体の修飾によって疎水性が高まったことが確認された.イオン液体修飾触媒を用いて,シンナムアルデヒドの還元反応を実施し,水の添加効果を検討した結果,未修飾触媒に比べ耐水性が向上していることが明らかとなった.このように,触媒にイオン液体を修飾剤として用いることにより,触媒に耐水性を付与するといった基本的な方針が妥当であることが確認された.この方針を根幹としてさらなる耐水性触媒創成への道筋が得られたと評価でき,概ね順調に進展しているとした.
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今後の研究の推進方策 |
疎水性イオン液体をZr/MCM-41触媒のメソ細孔内に充填する方法で,触媒にある程度の耐水性を付与することができたので,次の方針に従って研究を進めていく. ①修飾するイオン液体の量を制御し,最適量が存在するかどうか検討する.疎水性イオン液体は,Zr4+イオンを被覆し水分子との接触を阻害すれば十分であると考えられるので,メソ細孔を全てイオン液体で満たす必要が無い可能性がある.つまり触媒表面に薄膜状に修飾することが最適構造である可能性があるので,この点を詳細に検討する. ②疎水性イオン液体の種類(特に陽イオン部位)を変化させて,イオン液体の構造の効果を検討する.イオン液体を変化させると,疎水性はもちろんのこと,溶媒や反応分子(有機化合物,基本的に疎水性)との相互作用も変化すると考えられる.すなわち,ある種の溶媒効果が存在するはずである.その点を確認するために数種類の異なる構造のイオン液体を用いて検討する. ③イオン液体の導入方法についても検討する.現在イオン液体は,incipient wetness法を用いて,触媒物理的にメソ細孔内に充填している.他の修飾法を検討することで,イオン液体分子のメソ細孔内での安定性および触媒表面との相互作用の強さを変化させることができる.この点を検討するために調製法を変えて詳細に検討する. ④これら触媒の疎水性(水蒸気吸着法)および導入量(昇温酸化法)を検討し,耐水性との関連性を検討する.上記各種検討項目で調製した触媒を用いて水蒸気吸着量の測定およびイオン液体修飾量との関連性並びに選択還元反応における耐水性への影響について総合的に考察する. 現在,他研究機関の研究者とイオン液体で修飾した触媒のキャラクタリゼーション法についても検討中であり,新たな評価法として採用できればその手法も積極的に取り入れていく.
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次年度の研究費の使用計画 |
該当無し
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