研究課題/領域番号 |
24560955
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
後藤 猛 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10215494)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 生物・生体工学 / 遺伝子導入 |
研究概要 |
培養細胞による組換えタンパク質の生産や遺伝子治療などにおいては,細胞内へ遺伝子を効率的に導入することが求められる。本研究では,ウイルス感染を模倣して,タンパク質(Protein)と核酸(Nucleic acid)から成り,遺伝子の自在な装填を可能にする新規なハイブリッド(hybrid)型ベクター(PNh)を創製することを目的とする。 ウイルス感染機構の模倣には,これまで報告されているウイルスのシグナルペプチドライブラリーの中から,有望と思われる核局在シグナル(NLS)および膜融合ペプチド(TAT)を選択し,さらに,シグナルペプチドを有し,かつ遺伝子を自在に装填できるタンパク質には,ビオチン化を介してDNAと強く結合出来るストレプトアビジンを用いることとした。なお,ストレプトアビジンは4量体を形成するため,4個のビオチン結合サイトを有することになることから,比較検証のためにストレプトアビジンは活性型(SAv-a)と不活性型(SAv-d)の2種類を用いた。シグナルペプチドと各ストレプトアビジン,さらに精製のためのヒスチジンタグを有する融合タンパク質(TAT-NLS-SAv-a,TAT-NLS-SAv-d,TAT-SAv-a,TAT-SAv-d,NLS-SAv-a,NLS-SAv-d)を発現する大腸菌の形質転換体(6種)を作成した。 一方, NLSとTATの有効性を確認するために,上記と並行して,ストレプトアビジンに代えて強化緑色蛍光タンパク質(EGFP)を有する融合タンパク質(TAT-NLS-EGFP,TAT-EGFP,NLS-EGFP)を発現する大腸菌の形質転換体(3種)を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は,NLSおよびTATとEGFPを融合させたタンパク質(TAT-NLS-EGFP,TAT-EGFP,NLS-EGFP)を用い,これを昆虫細胞系に添加して細胞内トラフィキングを蛍光顕微鏡によって観察し,NLSおよびTATのシグナルペプチドとしての性能を評価するところまで研究を行う予定であったが,この最後の段階は実施することが出来なかった。これは,用意していた昆虫細胞にコンタミネーションが生じ,凍結保存していた細胞を解凍して無血清培地に馴化させるまでに多くの時間がかかってしまったことが原因である。 しかし,この時間を利用して,当初は予定していなかった不活性型ストレプトアビジンの融合タンパク質の発現系を構築した。
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今後の研究の推進方策 |
EGFPを有する融合タンパク質(TAT-NLS-EGFP,TAT-EGFP,NLS-EGFP)を大腸菌培養により大量生産し,Niアフィニティクロマトグラフィーにより精製する。さらにこれをSf9昆虫細胞と混合し,EGFPの細胞内トラフィキングの挙動を蛍光顕微鏡で追跡することにより,シグナルペプチドTATとNLSの性能を評価する。 一方,制限酵素EcoRIの切断配列をもつ約10 merの一本鎖デオキシオリゴヌクレオチドの3’末側をビオチン化する。EGFPのcDNAを昆虫プロモーター(polh)とターミネーターの間に組み込み,これらをPCRにより増幅させる。これをEcoRI消化し,先のビオチン化デオキシオリゴヌクレオチドとライゲーションした後にシグナルペプチド融合ストレプトアビジンと結合させ,ハイブリッド型ベクター(EGFP-PNh)を構築する。 EGFP-PNhをSf9昆虫細胞系に添加し,蛍光マイクロプレートリーダーによりEGFPの発現挙動を分析する。特に,PNhベクター濃度:Sf9細胞密度の比(moi)およびトランスフェクション時の細胞密度,血清の有無,溶存酸素濃度,pHなどがトランスフェクション効率に影響することが予想されることから,これらのトランスフェクション条件を詳細に調べ,その最適条件を明らかにする。 一方,細胞の生理状態がウイルス感染効率に大きく影響することが明らかになっており,トランスフェクションにおいても同様と考えられる。そこで,薬剤添加により細胞周期を種々そろえたSf9昆虫細胞にEGFP-PNhベクターを添加し,EGFPを発現する細胞をフローサイトメトリーにより分析する。これにより,トランスフェクション時の細胞の生理状態がトランスフェクション効率に及ぼす影響を調べる。
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次年度の研究費の使用計画 |
トランスポゾンとは細菌の染色体上にある移動性のDNAであり,Tn3型のものはトランスポザーゼ遺伝子とレゾルベース遺伝子とともに逆方向反復配列(IR)に挟まれた構造を有している。幾つかのサプライヤーから入手可能となっているTn3を用い,PNhベクターからEGFP遺伝子をSf9細胞の染色体上に転移させることによるEGFPの構成的な発現について検討する。そのため,まずTn3型トランスポゾンおよびEGFP発現遺伝子のセットを調製し,これを結合させたPNhベクターを構築する。これをSf9昆虫細胞と混合してトランスフェクションされた細胞をフローサイトメトリーのセルソーティング機能により集め,継代を繰り返してEGFPの発現の安定性を調べる。これより,PNhベクターの遺伝子治療への応用の可能性を明らかにする。 一方,Sf9昆虫細胞へのトランスフェクションで得られた知見をもとに,動物プロモーター(CMV)制御下のEGFP遺伝子をPNhベクターに装填し,マウス培養細胞へのトランスフェクションについて,上記の昆虫細胞を用いた実験と同様の方法により検討する。 本PNhベクターは原理的に感染性ウイルスの表層タンパク質などの遺伝子も簡単に装着できることから,新しいDNAワクチンとしての応用も可能と考えられる。そこで,動物プロモーター(CMV)制御下のEGFP遺伝子を装填したPNhベクターをマウスに皮下注射し,EGFP発現とそれに対する抗体生成について調べてDNAワクチンへの応用の可能性を明らにする。なお,マウスを用いるこの動物実験は,外部の専門機関に委託してその他の実験と並行して実施する。
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