研究課題/領域番号 |
24560955
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
後藤 猛 秋田大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10215494)
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キーワード | 生物・生体工学 / 遺伝子導入 |
研究概要 |
培養細胞による組換えタンパク質の生産や遺伝子治療などにおいては、外来遺伝子を宿主細胞に効率的に導入する必要がある。本研究では、ウイルス感染による遺伝子導入プロセスを模倣し、タンパク質(protein)と核酸(nucleic acid)から構成され、かつ遺伝子の自在な装填を可能にする新規なハイブリッド(hybrid)型ベクター(hPN)を創製することを目的とする。 ウイルス感染の模倣には核局在化シグナル(NLS)および膜融合ペプチド(TAT)を選択し、これらシグナル配列の細胞核内への輸送能力を調べるために強化緑色蛍光タンパク質と(EGFP)との結合体を作成し、Sf9昆虫細胞と混合してそのトラフィキングを蛍光顕微鏡により観察した。その結果、EGFPおよびNLS-EGFPは細胞内に進入できないが、膜融合ペプチドを有するTAT-EGFPとTAT-NLS-EGFPは細胞内に進入でき、さらに核局在化シグナルと膜融合ペプチドの両方を有するTAT-NLS-EGFPのみが核膜も透過して細胞核内に局在化することを明らかにした。 次に、核内まで運搬することが出来たシグナル配列TAT-NLSと目的遺伝子を自在に結合させるために、TAT-NLS結合ストレプトアビジン(TAT-NLS-aSA:活性型とTAT-NLS-dSA:不活性型)を生産する組換え大腸菌を構築した。さらに、組換え大腸菌の大量培養によりTAT-NLS-aSAとTAT-NLS-dSAを生産し、Hisタグによるアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。 また、細胞核内に移送するモデル遺伝子として、昆虫ポリヒドリンプロモーターの5'側に制限酵素認識部位を有し3'側にEGFPのcDNAを連結させたものを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
平成24年度において、用意しておいた細胞培養系に大規模なコンタミネーションが発生し、新たに細胞を準備して無血清培地に順化させるために時間を要し、研究計画に大きな遅れが生じた。さらに、平成25年度においては研究施設が入っている建物の改修工事が決まり、十分な実験環境と時間が確保できない等の事態が生じたために、予定していた実験の一部は断念せざるを得ない状況となった。なお、この改修工事は平成25年度内に終了する予定であったが、東日本大震災復興事業等の影響による建築資材コストの上昇ならびに建築工事作業者不足などのために、工事期間が平成26年度前半まで約4ヶ月間延長されることになった。
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今後の研究の推進方策 |
改修工事のために実験環境が制約された条件で研究を行わざるを得なくたったため、最終年度に計画していた動物実験を含む応用研究の実施が非常に厳しくなった。そこで、最終年度は培養細胞系を用いる研究内容の充実を図ることとし、応用研究の不足分を補完する。 ストレプトアビジンは4量体を形成してそれぞれがビオチンと結合するが、単量体のままではビオチンと結合しない。したがって、通常の活性型ストレプトアビジンを用いた場合にはその4量体に目的遺伝子4つが結合した巨大分子が形成されることになり、この分子の巨大化が細胞内移動を抑制してしまうことが危惧される。しかし一方で、この抑制の程度が小さい場合には、多くの遺伝子を一度に核内まで運搬できることになり、組換えタンパク質の発現効率の上昇が期待できる。そこで、これら両方の可能性を調べるために、平成25年度に大量生産したシグナル配列結合活性型ストレプトアビジン(TAT-NLS-aSA)と不活性型ストレプトアビジン(TAT-NLS-dSA)を用い、その割合を変えて尿素存在下で混合し、さらに透析法によって5種類の4量体を調製する。この5種類の4量体にはビオチン化オリゴペプチドを介してモデル遺伝子(ポリヒドリンプロモーター下流にEGFPのcDNAを連結させたもの)を0~4分子結合できることから、これらのSf2昆虫細胞へのトランスフェクションを試みて、発現する緑色蛍光の強度から最適な4量体を決定する。さらに、本結果を検証するために、活性型ストレプトアビジン4量体の4つのビオチン結合部位の一部をビオチンでマスキングし、これにモデル遺伝子を結合させたものを調製して同様にEGFP発現挙動を調べる。さらに、細胞細胞と動物プロモーターを用いたトランスフェクション実験も同様に行い、宿主の違いによるトランスフェクション効率を調べる。
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