培養細胞による組換えタンパク質の生産や遺伝子治療などにおいては,外来遺伝子を宿主細胞に効率的に導入する必要がある。本研究では,ウイルス感染による遺伝子導入プロセスを模倣し,タンパク質(Protein)と核酸(Nucleic acid)から構成され,かつ遺伝子の自在な装填を可能にする新規なハイブリット(Hybrid)型ベクター(hPN)を創製することを目的とする。 昨年度において,膜透過ペプチド(TAT)YGRKKRRQRRおよび核移行シグナル(NLS)PKKKRKVをこの順に結合させた強化緑色蛍光タンパク質(TAT-NLS-EGFP)は,Sf9昆虫細胞に輸送されて30分以内に核内に局在化することを見出した。本年度はさらにTATとNLSの順序を逆にしたNLS-TAT-EGFPの細胞輸送挙動を調べたところ,NLS-TAT-EGFPは細胞内に輸送されるものの,核内には到達できないことが分った。これは,細胞内でTAT部位が加水分解され,EGFPからNLSが欠落したためと推察された。 さらに,hPN本体のタンパク質部分を構成し,細胞輸送を可能にするTAT-NLSを結合させたストレプトアビジン(TAT-NLS-aSA:活性型およびTAT-NLS-dSA:不活性型)について,大腸菌による生産を試みたところ,その殆どは水不溶な沈殿として発現してしまう問題が生じた。そこで,組換えタンパク質の可溶化発現に有利とされるコールドショックプロモーターを利用した組換え大腸菌を構築した。その結果,可溶化TAT-NLS-aSAとTAT-NLS-dSAの収量が大幅に向上した。 現在,Hisタグによるアフィニティクロマトグラフィーにより精製したTAT-NLS-aSAとTAT-NLS-dSAの4量体にビオチン化遺伝子を結合させたhPNを調製中であり,そのSf9昆虫細胞へのトランスフェクションを検討している。
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