研究課題/領域番号 |
24560966
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 東京薬科大学 |
研究代表者 |
赤沼 哲史 東京薬科大学, 生命科学部, 助教 (10321720)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 酵素工学 / 好熱菌酵素 / 酵素利用 |
研究概要 |
好熱菌由来脱水素酵素の補酵素結合、非極性アミノ酸の置換による低温高活性化の検討と、複数のアミノ酸置換の相乗効果を検討した。その成果の概要は以下のようになる。 補酵素NADのアデニン環と相互作用する非極性アミノ酸の側鎖の大きさをメチル基一つ大きくするか小さくすることによって、好熱菌由来脱水素酵素の高い耐熱性を損ねることなく、低温における酵素活性を向上できるか検討するした。Thermus thermophilus由来イソクエン酸脱水素酵素、Thermoplasma acidophilum由来グルコース脱水素酵素の補酵素結合部位にある非極性アミノ酸を他の非極性アミノ酸に置換した変異型酵素を作製し、25℃での酵素活性を測定した。その結果、両脱水素酵素において、低温高活性化型変異酵素の獲得に成功した。この成果は、本研究計画の主要な目的の一つであった補酵素結合に関わる非極性アミノ酸の側鎖サイズをわずかに変化させることが、好熱菌由来脱水素酵素の一般的な低温高活性化設計法になることを示したと言える。 T. thermophilus由来耐熱性3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素で見出されていた低温高活性化に寄与する複数のアミノ酸置換を組み合わせた変異型酵素を作製し、それらのアミノ酸置換の相乗効果を検討した。その結果、検討したすべての組み合わせで、単独のアミノ酸置換に比べ、酵素活性の減少が見られた。複数のアミノ酸置換を同時に活性部位近傍に導入すると、活性部位の構造変化が大きくなりすぎるためであると解釈した。補酵素結合残基の置換による低温高活性化が、いずれも側鎖体積のわずかな変化によってもたらされていることから、複数のアミノ酸置換により加算的に高活性化するためには、活性部位から離れたアミノ酸置換を組み合わせなければならないという指針を確立した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の当初の予定は以下の通りであった。 (1)好熱菌由来イソクエン酸脱水素酵素、グルコース脱水素酵素の補酵素のアデニンと結合する非極性アミノ酸を別の非極性アミノ酸に置換した変異型酵素を作製し、野生型酵素と比較して低温高活性化するか調べる。(2)「補酵素のアデニンと相互作用する非極性アミノ酸の置換」による低温高活性化設計原理が、「基質の反応前後で変化しない官能基と結合する残基の置換による低温高活性化」へと発展できるかを明らかにするため、好熱菌由来ピルビン酸キナーゼとラッカーゼについて、基質であるADPのアデニン、あるいは、メディエータ型基質であるABTSの反応前後で変化しない環状官能基部分と相互作用する非極性アミノ酸を、他の非極性アミノ酸に置換した変異型酵素を作製する。(3)単独で好熱菌由来3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素の低温高活性化に寄与するアミノ酸置換を複数組み合わせることで相乗効果が得られるか検討する。 (1)については、好熱菌由来イソクエン酸脱水素酵素のGly262Ala変異型酵素と、好熱性古細菌由来グルコース脱水素酵素のIle192Val変異型酵素が、それぞれの野生型酵素と比べて25℃での活性が向上したことを明らかにした。(2)については、好熱菌由来ピルビン酸キナーゼとラッカーゼそれぞれについて複数の変異型酵素を作製したので、次年度、詳細な触媒活性の解析をおこなうことができる。(3)については、作製したすべての二重アミノ酸置換変異型酵素が、単独のアミノ酸置換を持つ変異型酵素と比べ酵素活性が低下したが、一方で、次年度以降に、複数のアミノ酸置換の効果を加算的に得るにはどのようにアミノ酸置換を組み合わせればよいかの指針が得られた。 以上のように、平成24年度は概ね当初の予定通りに研究が進捗した。
|
今後の研究の推進方策 |
高度好熱菌T. thermophilus由来イソクエン酸脱水素酵素のGly262Ala置換と、中等度好熱菌T. acidophilum由来グルコース脱水素酵素のIle192Val置換が、低温高活性化に寄与することが平成24年度中に明らかとなった。そこで次年度以降、より耐熱性が高い反面、低温での活性が低い超好熱菌Sulfolobus tokodaii由来イソクエン酸脱水素酵素とグルコース脱水素酵素に同じアミノ酸置換を導入し、同様に低温高活性化するか、高活性化する場合、その程度はT. thermophilus由来酵素、T. acidophilum由来酵素の場合と比べてどのように違うかを明らかにする。 平成24年度中に、好熱菌由来ピルビン酸キナーゼとラッカーゼの、基質であるADPのアデニンと、あるいは、メディエータ型基質であるABTSの反応前後で変化しない環状官能基部分と相互作用する非極性アミノ酸を、他の非極性アミノ酸に置換した変異型酵素を作製した。次年以降、これらの変異型酵素の触媒活性特性を詳細に解析し、「補酵素のアデニンと相互作用する非極性アミノ酸の置換」による低温高活性化設計原理が、「基質の反応前後で変化しない官能基と結合する残基の置換による低温高活性化」へと発展できるか検討する。これらの変異型酵素の低温活性が向上しなかった場合には、ランダム変異導入とスクリーニングにより、低温高活性化した変異型酵素の獲得を試みる。 平成24年度中に、T.thermophilus由来3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素の低温高活性化に寄与する複数のアミノ酸置換の効果を加算的に得るためには、活性部位から離れたアミノ酸置換を組み合わせるべきであることが示唆された。そこで次年度以降、そのようにアミノ酸置換を組み合わせた多重アミノ酸置換変異型酵素を作製し、触媒活性がどのように変化するか検討する。
|
次年度の研究費の使用計画 |
物品費は、変異型酵素の遺伝子を作製するために必要となる部位特異的変異導入、塩基配列の確認、発現ベクターの作製、遺伝子発現のための遺伝子操作用試薬を購入するための費用、酵素の精製と解析のためのタンパク質発現精製用試薬と精製用カラムを購入するための費用、さらに、実験全般を通して用いることになるプラスチック・ガラス器具の購入費用として使用する予定である。 得られた研究成果を滞りなく発信するため、国内の学会に参加するための国内旅費が必要である。また、学術論文として国際誌にも発表するための費用(外国語論文の英文校閲に必要な費用と、投稿料、別刷り代)も必要となる。 本研究計画の遂行にあたり、研究代表者が所属する研究室の大学院生の研究補助を受けるので、その謝金を支払う予定である。
|