研究課題
超好熱菌由来脱水素酵素の、補酵素アデニン環に近接する非極性アミノ酸の置換による低温高活性化の検証と、高度好熱菌由来脱水素酵素の低温活性を常温菌由来相同酵素と同程度まで向上させる方法論の検討をおこなった。その成果の概要は以下のようになる。1. 補酵素NADのアデニン環と相互作用する非極性アミノ酸の側鎖の体積をメチル基一つ分変化させることによる、好熱菌由来脱水素酵素の低温高活性化の一般性の検証をおこなった。超好熱菌Sulfolobus tokodaii由来NAD依存型グルコース脱水素酵素のアデニン結合残基であるVal254をIleに置換した変異体を構築し、解析したところ、25℃における酵素活性が野生型酵素より向上していることがわかった。また、耐熱性は損なわれなかった。この成果については、論文発表をおこなった。また、この成果は、本研究計画の主要な目的の一つであった、補酵素のアデニンと結合する非極性アミノ酸の側鎖体積をメチル基一つ分変化させることによる、好熱菌由来脱水素酵素の低温高活性化の一般性を示したと言える。2. 本研究計画のもう一つの主要な目的である、好熱菌酵素の低温活性を常温菌相同酵素と同程度まで向上させるため、単独で低温高活性化に寄与するアミノ酸置換を複数個同時に導入した変異体を作製し、解析したが、検討したすべての組み合わせでさらなる低温高活性化は見られなかった。そこで、好熱菌酵素と常温菌酵素のアミノ酸配列の比較による高活性化戦略を探索し、その結果、T. thermophilus由来耐熱性3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素の25℃における酵素活性を10倍以上向上させるアミノ酸置換の組み合わせを同定した。この成果は、ここで採用した戦略の有効性を十分に示すものであり、この方法論については特許出願した。
2: おおむね順調に進展している
平成25年度の当初の予定は以下の通りであった。1.グルコース脱水素酵素の補酵素のアデニンと結合する非極性アミノ酸を別の非極性アミノ酸に置換した変異型酵素を作製し、野生型酵素と比較して低温高活性化するか調べる。2.T. thermophilus由来3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素の低温高活性化に寄与する複数のアミノ酸置換の効果の加算を検証する。1については、超好熱菌Sulfolobus tokodaii由来NAD依存型グルコース脱水素酵素のアデニン結合残基であるVal254をIleに置換した変異体の25℃における酵素活性が、野生型酵素と比べ向上することを明らかにした。また、その際、耐熱性を損なうことがないことも明らかにした。この成果から、本研究計画の主要な目的の一つであった、補酵素のアデニンと結合する非極性アミノ酸の側鎖体積をメチル基一つ分変化させることによる、好熱菌由来脱水素酵素の低温高活性化の一般性の検証を達成できた。2については、単独で高活性化に寄与するアミノ酸置換を組み合わせた二重アミノ酸置換変異型酵素を構築し、解析したが、作製したすべての二重アミノ酸置換変異型酵素が、単独のアミノ酸置換を持つ変異型酵素と比べ酵素活性が低下した。そこで、好熱菌酵素の低温活性を常温菌酵素と同程度にまで高活性化させるための新たな戦略を確立し、実際にT. thermophilus由来3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素の25℃における酵素活性を10倍以上向上させるアミノ酸置換を同定した。この結果から、次年度内に好熱菌酵素の低温活性を常温菌酵素と同程度にまで向上させるための指針が得られた。以上のように、平成25年度は概ね当初の予定通りに研究が進捗した。
平成25年度中に、本研究計画の主要な目的の一つであった、補酵素のアデニンと結合する非極性アミノ酸の側鎖体積をメチル基一つ分変化させることによる、好熱菌由来脱水素酵素の低温高活性化の一般性の検証を達成することができた。そこで、次年度は本研究計画のもう一つの主要な目的である、好熱菌酵素の低温活性を常温菌相同酵素と同程度まで向上させるための研究をおこなう。平成25年度中に、以下のルールに基づくT. thermophilus由来3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素を低温高活性化するための方法論を開発・検討した。(1)常温菌由来酵素とのアミノ酸配列の比較をおこなう、(2) 両者でアミノ酸が異なる部位に、常温菌型のアミノ酸置換を導入する、(3)ただし、活性中心から0.8 nm以内にあるアミノ酸部位のみを対象とする、(4)アミノ酸配列および立体構造上で近接する部位のアミノ酸置換は同時に導入する。そこで、次年度はこのルールに従って、多くのT. thermophilus由来3-イソプロピルリンゴ酸脱水素酵素の低温高活性化に寄与するアミノ酸置換の同定を試みる。さらにアミノ酸置換の探索範囲を活性中心から0.8 nmよりも広げることも想定している。また、高活性化に寄与するアミノ酸置換を蓄積させることによって、最終的には常温菌酵素と同程度にまで低温活性が向上した変異体の獲得を試みる。また、その際に耐熱性がどのように変化するかを明らかにすることによって、耐熱性と低温酵素活性の間のトレードオフについても検討する。
研究計画が当初の予想よりも順調に進行したため、学会発表の機会が増え、旅費は当初の計画よりも増加したが、それ以上に物品費等の出費を抑えることができた。そこで、その分を次年度に当初の予定を超えて研究を発展させるための物品費、旅費等に使用することにした。物品費は、変異型酵素の遺伝子を作製するために必要となる部位特異的変異導入、塩基配列の確認、発現ベクターの作製、遺伝子発現のための遺伝子操作用試薬を購入するための費用、酵素の精製と解析のためのタンパク質発現精製用試薬と精製用カラムを購入するための費用、さらに、実験全般を通して用いることになるプラスチック・ガラス器具の購入費用として使用する予定である。得られた研究成果を滞りなく発信するため、国内の学会に参加するための国内旅費が必要である。また、学術論文として国際誌にも発表するための費用(外国語論文の英文校閲に必要な費用と、投稿料、別刷り代)も必要となる。本研究計画の遂行にあたり、研究代表者が所属する研究室の大学院生の研究補助を受けるので、その謝金を支払う予定である。
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