研究課題/領域番号 |
24560981
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京都立産業技術高等専門学校 |
研究代表者 |
中野 正勝 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 准教授 (90315169)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | スパッタリング / カーボン・カーボン複合材 |
研究概要 |
本研究では、カーボン・カーボン複合材表面の持つ複雑な構造を反映したスパッタ収量モデルを構築することを目標としており、そのために実験及び解析の両面から取り組みを行っている。当該年度実施した研究の大きな成果は、交付申請書の研究実施計画に従い、マイクロ波イオン源の整備とμmオーダーの表面構造モデルの構築の2つである。これらそれぞれの意義と重要性について次に述べる。まず、マイクロ波イオン源はスパッタ収量測定を行うためのイオンビームを作り出すために必要不可欠であり、今後スパッタ収量モデルを構築していく上で無くてはならないものである。このマイクロ波イオン源については、マイクロ波放電部とイオン加速部から構成される装置であり、申請者の所属機関が所有している真空容器に設置され、仕様通りの性能を確認した。本研究では主としてプラズマ推進機で用いられるアルゴンやキセノンのスパッタ収量の測定を目標としていることから、イオンビームのエネルギ範囲はプラズマ推進機で典型的な範囲となるよう上限を2keVとし、100倍程度の加速試験が可能となるように100μA/cm2程度のイオンビーム密度になるようにしている。次に、表面構造モデルの構築について述べる。まず、実験的に材料表面データを取得するために、電子顕微鏡による観察手段を得るとともに、μ10イオンエンジンのグリッドのカーボン・カーボン複合材を入手し、カーボン・カーボン複合材表面の表面構造を明らかにする準備段階に入った。理論的な取り組みの点では、本年度は、平らな原子レベルで構築したスパッタ収量モデル(素過程モデル)を元に、μmオーダーの凹凸構造を持つ表面に対して拡張した数学的なモデルを構築することができ、3次元ビームシミュレーションコードを用いた次年度以降の詳細なスパッタ収量モデル構築へとつなげることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、実験及び解析の両面からの取り組みにより、カーボン・カーボン複合材表面の持つファイバー構造など複雑な形状を反映したスパッタ収量モデルを構築することを目標としている。今年度達成したことは、マイクロ波イオン源の整備とμmオーダーの表面構造モデルの構築である。マイクロ波イオン源は、スパッタ収量測定のために必要不可欠な装置であり、今後の研究遂行の上で欠かすことができないものである。この実験装置を順調に導入し、予備実験で所定の性能を確認できたことが、研究の達成度をおおむね順調と評価する一因である。また、スパッタリングを受ける表面の微細構造を把握する上で電子顕微鏡による表面観察が必要になるが、年度当初に表面観察のための装置の確保と観察ノウハウを得ることができた。解析的な取り組みでは、平らな平面に対するスパッタ収量モデル(素過程モデル)から、表面構造を入れたより大規模なモデルへの展開を行うことが重要になるが、円筒状のファイバーの構造を入れた数学的モデルを構築することで、素過程モデルよりも角度依存性が小さくなるスパッタ収量の実験データを整合性高く説明できることも判明した。これらの結果は次年度以降の研究の進展においてクリアすべき課題であり、研究の目的達成がより現実的になってきたと言えよう。また、カーボン・カーボン複合材はメーカー・ロット等が多様で様々なものがあるが、μ10イオンエンジンの初期実験で用いられたカーボン・カーボン複合材グリッドの提供を受けたため、特にグリッドのスパッタ率の詳細なデータが必要となるイオンエンジン向けのスパッタ収量モデルの構築が現実のものとなる点でも順調な進展が見て取れる。
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今後の研究の推進方策 |
1. 表面形状・スパッタ収量測定:マイクロ波イオン源で作り出したイオンビームをカーボン・カーボン複合材に照射することでスパッタリングを起こし、電子顕微鏡によってターゲット表面の変化を撮影することで、表面構造の変化データを取得する。ターゲット表面の撮影はイオン電流密度ならびに照射面の角度を変えてパラメトリックに取得していく。なお、撮像の際にカーボン・カーボン複合材表面が大気中の酸素や水により酸化や吸湿することが予想されるため、撮影間隔をパラメータとしてデータ取得し、スパッタリングへの影響も調べる。 2. スパッタ収量の測定:カーボン・カーボン複合材のスパッタ収量は、ファイバ等のマクロな構造を有するものの計測であるため、QCM上に炭素薄膜を形成してスパッタ率を測定するような手段を使うことは不可能である。したがって、数十~数百時間の長時間のイオンビーム照射を行い、その前後のターゲットの質量変化で計測を行う。ターゲットの質量変化は電子顕微鏡による表面観察の際に行うが、大気開放の際に酸化や吸湿による表面変化が起こることが想定されることから、必ずも信頼できるデータが取得できるとは限らない。そのため、一定数の表面構造データの取得を行った後は、真空容器の開放を行わず長期にわたるスパッタ試験を行う。この計測は平成25年度から実施し、平成26年度にかけて行う。なお、誤差等の入りやすい実験であるため、本項目の進行がうまくいかない可能性もあるが、その場合でも表面画像の取得によりモデル評価を行えるようにしたい。 3. 表面構造モデルの精度向上:平成24年度に構築したスパッタ予測モデルの検証と適用範囲の確認のために、ターゲット表面観察とスパッタ収量測定で得られたデータを用いて、JIEDIコードを用いて数値計算を行い、計算結果をパラメトリックに検証する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度に必要な物品を計画的かつ効率的に購入した結果生じた端数であり、翌年以降の物品の購入に合わせて使用することで、より効果的に使用する計画である。
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