研究課題/領域番号 |
24560981
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研究機関 | 東京都立産業技術高等専門学校 |
研究代表者 |
中野 正勝 東京都立産業技術高等専門学校, ものづくり工学科, 准教授 (90315169)
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キーワード | カーボン・カーボン複合材 / スパッタ収量 / キセノン |
研究概要 |
高いスパッタ耐性を有するカーボン・カーボン複合材は航空宇宙機器等に用いられるが、低エネルギー領域におけるこれまでのスパッタ収量の計算値はカーボン平板のスパッタ収量の実験値とも一致せず、原子レベルの表面を対象としたスパッタ解析コードの計算結果とも一致しない。これはカーボン・カーボン複合材表面の形状に起因すると考えられ、従来のモデル化では不十分であることを示している。本研究では、従来行われてきたスパッタ収量の比較に加えて、カーボン・カーボン複合材の表面構造の変化を損耗解析コードを用いて解析し、電子顕微鏡等の表面写真と比較することで、ファイバなどマクロな構造を持つカーボン・カーボン複合材のスパッタ現象を多面的に解明し、スパッタ収量モデルを構築することを目的としている。これまでにカーボン・カーボン複合材のスパッタ収量を高精度で求めることのできるモデルを構築した。μ10イオンエンジンのグリッド試験片を走査型電子顕微鏡で観察した結果、カーボン・カーボン複合材の表面には直径約10μm長さ数100μmのカーボンファイバが指向性なく分布していることが明らかとなったため、カーボン表面に対するスパッタ率モデルをキセノンの吸着を仮定した剣持らのモデルをベースに構築した上で、カーボンファイバを模擬した円筒面上のスパッタを全方位から合算することでカーボン・カーボン複合材のスパッタ収量を求めた。このスパッタ収量は実験結果とよい一致を示すとともに、実験値とのずれは寿命等を短く評価する安全側であった。また、このスパッタ収量モデルをイオンエンジンの加速グリッド系解析ツールに適用して評価した結果,μ10PMイオンエンジンのグリッド損耗量をこれまでのスパッタ収量モデルよりも実験結果に近く再現することができた。これと並行して、実験によるスパッタ収量モデルの妥当性評価と精度向上を目指してイオン源の特性評価を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では航空宇宙機器に用いられるカーボン・カーボン複合材の実用的なスパッタ収量モデルを構築することを目的としている。対象とするスパッタ粒子のエネルギ領域が数keV以下と低いために、長時間を要する実験によるデータ取得は現実的ではなく、理論や数値解析を併用した総合的な取り組みが必要とされる。これまでの課題は、カーボン・カーボン複合材のスパッタ収量の実測値が、モンテカルロコードや分子動力学的コードなどの原子レベルの表面を対象としたスパッタ解析コードの計算結果とオーダーの違いで一致しないことであった。また、低エネルギー領域でカーボン表面単体のスパッタ収量を高精度で求めることのできるモデルも存在しないのも大きな問題であった。後者のカーボン表面単体のスパッタ収量に関しては、剣持らのモデルを拡張することで実験値と整合性の取れるモデルを構築することができた。一方、前者については、実際のイオンエンジンの試験に用いられたカーボン・カーボン複合材の試験片を走査型電子顕微鏡により詳細に観察することで、カーボン・カーボン複合材の表面が円筒状のカーボンファイバーでランダムに覆われていることを明らかにし、その構造を反映させたスパッタ収量モデルを構築することで、これまでのどのモデルよりも実験値を定量的に再現し、かつ、カーボン表面単体のスパッタ収量モデルとも矛盾を起こすことのないスパッタ収量モデルを構築した。構築したスパッタ収量モデルは従来から利用されているスパッタ収量モデルの延長線上にあるため、新規にあらゆるパラメータに対して実験を行う必要はなく、範囲を狭めたピンポイントの実験によりモデルの精度を向上させることができる点で画期的であり、当初の計画以上の進展を示している。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに走査型電子顕微鏡による表面観察によってカーボン・カーボン複合材の表面構造を明らかにし、その構造的特長を取り込んだカーボン・カーボン複合材のスパッタ収量モデルを開発したが、スパッタ進行によるカーボン・カーボン複合材表面の形状変化をどの程度までモデルに取り込む必要があるのかどうかを決定する必要がある。カーボン・カーボン複合材のスパッタ収量に最も影響を与えるものは、スパッタ粒子の局所的なカーボン表面への入射角であり、カーボンファイバ表面の角度分布データが必要であるが、多くのカーボンファイバがランダムに配置された状態がスパッタの進行でも引き続き維持されるのであれば、今回構築したモデルで十分な精度を保つことができる。一方で、スパッタの進行により、ファイバ表面の損耗が著しく、角度分布に大きな偏りが生じていくのであれば、新たにその影響を考慮したモデルを構築する必要がある。これには実験的な評価が効率的かつ有効であり、初年度整備して今年度特性データを取得したイオン源を用いて、カーボン・カーボン複合材に対して、長時間もしくは高照射強度でのキセノンイオンビーム照射試験を行い、イオンビーム照射前後の表面形状の違いを走査型電子顕微鏡により観察して時系列データを取得し、損耗解析コードを併用してその特徴を抽出することで、カーボン・カーボン複合材のスパッタ収量モデルの精度向上につなげていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
カーボン・カーボン複合材のスパッタ収量試験に用いることを計画していたキセノンガスの価格が研究計画立案時よりも円安等の影響で高騰したため、今年度の予算では購入が不可能となった。 次年度の予算と合算することで実験に必要なキセノンガスを購入する。
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