研究課題/領域番号 |
24561019
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
板垣 正文 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), その他 (30281786)
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研究分担者 |
松本 裕 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (40360929)
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キーワード | 核融合プラズマ / 周辺磁場構造 / 最外殻磁気面 / 磁気センサー / コーシー条件面法 / 特異値分解 / 逆問題 / 非軸対称 |
研究概要 |
核融合装置内部のプラズマ最外殻磁気面(LCMS)形状を知ることは、プラズマのMHD平衡に関わる情報を引き出すために有用であり、運転制御上も重要である。JT-60等のトカマク型のように軸対称2次元プラズマに対しては、磁気センサー信号からプラズマ境界形状を同定するコーシー条件面(CCS)法が確立されている。H24年度より、大型ヘリカル装置(LHD)の非軸対称3次元プラズマにCCS法を拡張適用する研究を進めた。 H25年度は、CCS形状を真空容器形状に同期させてセンサー位置とCCS間の距離を最適化する「ひねりCCS」を考案し、磁力線追跡によるポアンカレ・プロットで磁気島を再現する等、周辺磁場構造の同定精度を向上させた。しかし、3次元計算に依然として多くの未知数を要するため、多数のセンサー情報を必要とした。 CCS法では、磁気センサー位置を特異点とする境界積分方程式の組を離散化し、連立1次方程式に変換する。その解法に特異値分解法を用いる場合、特異値の並びに特徴的な段差が出現することを発見し、その段差よりも小さな特異値を打ち切れば、CCS上の節点数に依らずLCMSを最も高い精度で推定でき、かつ、必要センサー数を大幅に削減可能なことを示した。LHD特有の幾何対称性も考慮すると、磁気センサー数を大幅に削減できた。さらに、この手法はセンサーノイズ耐性にも極めて優れていることを明らかにした。また、逆推定磁場から得たポアンカレ・プロットからLCMSを精度よく抽出する統計的手法も考案した。以上、開発した手法は実用レベルに達した。 今後は、CCS法解析で真空容器壁を流れる渦電流の寄与を無視できない場合があることに鑑み、本研究で培った数理技法をさらに発展させて、真空容器壁の渦電流分布そのものを逆推定する手法を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H24年度において、CCS形状を真空容器形状に同期させてセンサー位置とCCS間の距離を最適化する「ひねりCCS」を考案し、磁力線追跡によるポアンカレ・プロットでは磁気島を再現する等、周辺磁場構造の同定精度を向上させた。しかし、3次元解析に要する未知数の数が依然と膨大なため、これまでは磁場センサー440個、磁束ループ26個と非現実的に多数のセンサー配置を仮定せざるを得なかった。 H25年度において、解の精度を損なうことなく必要センサー数を削減する方策を示した。CCS法では、磁気センサー位置を特異点とする境界積分方程式の組を離散化し、連立1次方程式に変換する。その解法に特異値分解法を用いる場合、著者らは特異値の並びに特徴的な段差が出現することを発見し、その段差よりも小さな特異値を打ち切れば、CCS上の節点数に依らずLCMSを最も高い精度で推定でき、かつ、必要センサー数を大幅に削減可能なことを示した。LHD特有の磁場の上下対称性とヘリカル対称性も考慮すると、磁場センサー58個および磁束ループ13個まで削減できた。これはLHD実機に実装されているセンサー数と同程度である。また、逆推定磁場から得たポアンカレ・プロットからLCMSを精度よく抽出する統計的手法も考案した。さらに、この手法はセンサーノイズ耐性にも極めて優れていることを明らかにした。 これらの成果はPlasma Fusion Res.誌に投稿、掲載された(Itagaki, M., et al. 2013 Plasma Fusion Res., 8, 1402134)。一連の手法は、LHDのみならず非軸対称性を持つ一般の3次元核融合プラズマに適用可能なものである。H25年度の研究進捗は予定を遥かに上回っており、達成度は満足すべきものである。
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今後の研究の推進方策 |
H25年度までに開発した手法は実用レベルに達し、周辺磁場構造を高精度に推定可能であり、ヘリカルプラズマのMHD平衡同定精度を向上させるとともに、有限ベータ時の乱れた磁場領域の輸送特性の理解にも大きな貢献が期待できる。 ところで、最近、LHD以外の核融合実験装置において、プラズマ周辺の磁場構造および最外殻磁気面(LCMS)形状の推定において、真空容器壁を流れる渦電流の寄与を無視できない場合があることが、内外で問題視されている。このことに鑑み、H26年度は、本研究で培った数理技法をさらに発展させて、真空容器壁の渦電流分布そのものを逆推定する手法を検討する。基本的には、CCS法で組み立てる境界積分方程式の各々に渦電流に関わる境界積分項を加えることになる。真空容器壁渦電流が顕著とされる京都工芸繊維大学の逆磁場ピンチ型装置RELAXに対してテスト計算を行い、手法の検証を進める予定である。 H26年度はまた、核融合研および原子力機構へ出張し、これまでに得られた成果および疑問点について意見交換を行うとともに引き続き情報収集に努める。成果を、プラズマ・核融合学会、計算数理工学会等で発表する。また、境界要素法研究や核融合炉開発の分野における研究者との意見交換、最新の知見収集を図る目的で、成果を国際会議でも発表する。また、英国で開催される第37回境界要素法等国際会議BEM/MRMに出席し、これまでの成果を発表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度からの繰越金があったためと物品費の節約に努めため。 平成26年9月に開催される第37回境界要素法等国際会議への出張旅費および関連経費に(B-A)を充当したい。
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