研究課題
基盤研究(C)
本研究は、従来の電子サイクロトロン波を用いた加熱法では不可能であった波動の遮断密度以上のプラズマ加熱を、プラズマ実験装置高磁場側からの電子サイクロトロン波入射を可能とすることにより達成される電子バーンシュタイン波へのモード変換を利用して実現しようとするものである。LHD真空容器内にミラーを新たに設置することで、遅波Xモード電子サイクロトロン波(遅波X波)から電子バーンシュタイン波(EB波)へのモード変換とそれによる遅波X波の遮断密度以上のプラズマに対する加熱効果を実証した。2012年には本成果を国際会議(IAEA FEC)にて発表した。同内容による論文を執筆・投稿し、Nuclear Fusion誌に掲載された [1]。設置した真空容器内ミラーはステンレス製(融点1400度程度)であり、冷却機構が無くまた真空容器内上部に設置してあることから、溶融による損傷とそれによるプラズマへの悪影響を避けるために、このミラーを使用した電子サイクロトロン波入射のパルス長を200ミリ秒に制限していた。しかし200ミリ秒のパルス長では原理実証は出来ても放電時間が数秒にわたるLHDプラズマのパラメータ向上につなげるのは難しかった。2012年度は高融点金属であるタングステン(融点3380度)製の真空容器内ミラーを製作し既設のステンレス製ミラーと交換した。また、ミラーの温度計測のための熱電対設置を行った。これにより1秒以上のパルス長の遅波X-B加熱を実現し、LHDプラズマの最高蓄積エネルギーや最高中心電子密度の達成など、マクロなプラズマパラメータの向上に寄与することを目的としている。[1] Y. Yoshimura et al., Nuclear Fusion, 53, 063004 (2013).
3: やや遅れている
ステンレス製ミラーを用いたパルス長200ミリ秒までの電子サイクロトロン波加熱入力による遅波X-Bモード変換手法により、中心電子密度17×1019 m-3のピークした密度分布を持つスーパーデンスコアプラズマと呼ばれる超高密度プラズマ中心領域において電子温度の20%の上昇を実現した。ここで、用いている77GHzの電子サイクロトロン波の左回り遮断密度は14.7×1019 m-3であり、本研究課題の目的である電子バーンシュタイン波へのモード変換を利用した遮断密度以上のプラズマにおける加熱手法の原理実証は達成している。更なる発展として1秒以上のパルス長の遅波X-B加熱を実現し、LHDプラズマの最高蓄積エネルギーや最高中心電子密度の達成など、マクロなプラズマパラメータの向上に寄与することを計画した。そのために、冷却機構のない既設のステンレス製ミラーと交換するための、同じく冷却機構はないものの高融点金属でありパルス長の伸長が可能なタングステン製ミラーを製作した。2012年度のLHD第16サイクル実験前のメンテナンス期間中にタングステン製ミラーへの交換およびミラーの温度計測のための熱電対線の取り付けを実施した。その後のLHD第16サイクル実験において新タングステン製ミラーを用いた遅波X-B実験を行う予定であったが、実験開始準備中に生じたLHDの真空リーク発生への対処のための超伝導コイル昇温・リーク箇所補修・コイル再冷却作業により実験期間が短縮されたために、計画していた実験が実行出来なかった。そのため実験については当初計画からは1年遅れとなる2013年度に実行予定である。
2013年度のLHD第17サイクル実験において、新たに設置したタングステン製ミラーを用いた遅波X-B実験を行う。原理実証実験と同様に、遅波X波の左回り遮断密度である14.7×1019 m-3以上の中心電子密度を持つスーパーデンスコアプラズマを中性粒子ビーム入射装置を用いて生成・維持し、200ミリ秒程度の高磁場側入射ECHビームを入射する。加熱位置・効果の実験条件依存性を明らかにする。ミラー背面の熱電対温度データを監視しながら、ECHパルス長の伸長を行う。高密度プラズマを生成・維持するスーパーデンスコアプラズマ実験において、プラズマの維持に重要と考えられているプラズマ周辺部の温度上昇を実現し、さらにはこの電子温度上昇によって、維持可能なプラズマ密度の更なる増加を実現する。高蓄積エネルギーの達成を目的としたLHD実験に対しては中心加熱の遅波X-B法を適用し、LHDプラズマの最高蓄積エネルギーの達成を目指す。また大電力のECHビームの不適切な入射はLHD真空容器の損傷などのトラブルの原因となるため、その防止のためのインターロックシステムを、FPGA(Field Programmable Gate Array:プログラム可能な集積回路)システムを導入することで構築する。プラズマの密度、プラズマ放電が終了した際に急増する炭素の分光信号などをFPGAシステムへの入力とし、その出力により電子サイクロトロン波発生装置であるジャイロトロンの運転用電源の制御を行う。電子サイクロトロン波のパルス長設定値よりも早くプラズマ放電が異常終了した場合の電子サイクロトロン波の入射停止、プラズマ生成のために電子サイクロトロン波を入射したにも関わらず所定の時間内にプラズマが生成できなかった場合に入射を停止するなどの入射制御システムを構築し、LHDのECHシステム全体の高度化を図る。
インターロックシステムへの入力とする信号取得のための電圧ー光および光ー電圧の変換モジュール、絶縁アンプなどを購入し、FPGAシステムの整備とプログラミングを行う。研究で得られた成果について、研究の進展に応じて早期の発表を行っていくための会議参加費および旅費として使用する。国内での発表機会としては年二回開催される物理学会、年一回のプラズマ核融合学会を、国外での発表は国際ステラレータ/ヘリオトロンワークショップ(ISHWS)、電子サイクロトロン波加熱/放射に関する国際会議(EC会議)、ヨーロッパ物理学会、アメリカ物理学会などを時期に応じて選択することを想定している。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (2件)
NUCLEAR FUSION
巻: 53 ページ: 063004-1, 4
Plasma Science and Technology
巻: 15 ページ: 93-96
10.1088/1009-0630/15/2/02
Plasma and Fusion Research
巻: 7 ページ: 2402020-1, 4
10.1585/pfr.7.2402020