材料における水素、特にトリチウムの透過挙動は、トリチウムを燃料として使用する核融合炉において安全上非常に重要な課題であることから、精力的な研究が行われてきた。しかし、溶接時の入熱により均質性を失った領域(不均質領域)が、水素の透過挙動にどの程度の影響を与えるのか明らかにされていなかった。 そこで本研究では、水素透過挙動に与える不均質領域の影響を調べるため、熱影響部が重ならないよう9箇所及び18箇所のTIG溶接を施したSUS304ステンレス鋼試験体を用いて、423K、473K、523K及び573Kの温度域での重水素透過流量を測定した。その結果、不均質領域のある試験体と溶接を施していない試験体の定常透過流量はほとんど一致し、この温度領域では溶接で生じる不均質領域は定常透過に影響を与えないことを明らかにした。平成26年度は、溶接により導入された不均質領域の断面観察を行い、熱影響部に重なりがないこと並びに入熱が十分な溶接、すなわち通常行われている溶接と同じであることを確認した。 以上のことから、核融合炉においてSUS304ステンレス鋼で構成さた機器、配管等の水素透過は、溶接による不均質領域には影響されず、これまで報告されているSUS304ステンレス鋼の水素透過を元に評価して良いことが明らかとなった。
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