福島第一原子力発電所の事故により環境中に放出されたCsの移行挙動を把握することが重要である。Csは土壌中の粘土質に強く収着する一方、その収脱着は土壌有機物の影響を受ける。本研究は、放射性Csを含む土壌廃棄物の処理・処分に際し、土壌自体の持つバリア機能について、長期信頼性・安定性の評価に資することを目的とし、実験と分子動力学(Molecular Dynamics:MD)計算を組み合わせ、粘土鉱物・Csの相互作用に土壌有機物が影響を与えるメカニズムを理解することを目指す。 平成26年度は、イライトとモンモリロナイトの2種類の粘土鉱物に対して、フミン酸、またはフルボ酸を添加した系において収着実験を行い、粘土鉱物のみの場合における収着と比較した。比較の際には、それぞれの粘土鉱物に収着容量及びCs選択性の異なる3種類のサイトが存在することと仮定した。モンモリロナイトについてはフミン酸の添加により層間において収着容量の減少が見られた。フミン酸は添加量の約7割がモンモリロナイトに収着しているため立体的な障害となる有機分子が層間や外表目に吸着したためと考えられる。イライトについては、FESにおいてフルボ酸が共存する際に選択性の増加が見られた。この系では、液相中のアルミニウム、シリカの濃度が粘土のみの系よりも高くなっており、フミン酸がイライトのエッジ部分の構造に変化を及ぼして選択性を変化させた可能性が示唆された。 MD計算によるCs-DOMの錯形成シミュレーションでは、Cs-DOM錯体は他の陽イオン-DOM錯体と比較して、溶媒露出面積(SASA)、体積、SASA:体積比が最も大きく、親水性が高いことが明らかになった。また、DOM由来の酸素原子とCsと錯形成は、そのほとんどがカルボキシル基の酸素であり、CsはDOMに対して二座配位と一座配位が混在して内圏錯体を形成していることを明らかにした。
|