研究課題/領域番号 |
24561042
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
谷池 晃 神戸大学, 海事科学研究科(研究院), 准教授 (50283916)
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キーワード | 放射線グラフト重合 / イオンビーム / タンデム加速器 / 機能性ポリマー |
研究概要 |
本学タンデム加速器のマイクロビーム用ライン端にポリエチレン照射用チェンバーを設置した.ポリエチレンを設置するターゲットホルダーはチェンバー外部に設置されたモータによって位置を制御できるようにした.さらにその駆動機構は加速器制御室から遠隔操作できるように工夫した.これによって,基盤のポリエチレンをマイクロイオンビームで照射しながら,その照射位置を制御できる実験体系を構築することができた.さらに,マイクロイオンビームを生成し,イオンビームのパラメータ(エネルギー,レンズ値等)に対するポリエチレンターゲット上におけるビーム径,電流等の基礎データを収集した. 加えて,陽子ビームがターゲットに入射したときに発光する様子を拡大レンズ付きのビデオカメラを用いて観測するシステムを構築した.マイクロイオンビームを用いた照射を行うため,ポリエチレンを照射した際の発光量は少なく,ビーム径を測定することは困難であった.そこで,陽子ビームがガラス(石英)に入射した時の発光をその場で観測し,正確なビーム径を求め,ポリエチレン照射を行うようにした. グラフト鎖の導入量の基準となるグラフト率は,イオンビームのフルエンスとフルエンス率に依存して変化し,グラフト率が最大となるフルエンスとフルエンス率が存在する.先程のビーム径と電流を用いてより最適な照射時間・面積を求めてターゲットを動かすことにした.照射後,ポリエチレン試料を取り出してグラフト重合反応操作を行ったところ重合が確認できた. 高フルエンス照射によってグラフト鎖が導入されない部分の形成を行った.試料中の二重結合の量のフルエンスに対する依存性を測定できた.高フルエンス照射時のポリエチレン中のラジカルを電子スピン共鳴装置で測定することで,さらに有用な結果が得られた.これを元にして,論文を投稿し,受理された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度は,本学タンデム加速器設備のマイクロビームライン端に,イオンビームグラフト重合法を用いて,グラフト鎖をポリエチレン中に3次元的に配置するための装置を設置することができた.さらに,照射時のイオンビームの形状をその場で観測する装置の設置も行った.また,平成25年度の後半までアクリル酸の流通が無かったが,従来通り入手できるようになったので,年度終盤ではあるが,重合実験を行うことができるようになった.これらを用いてマイクロイオンビームを生成し,微細なグラフト重合の先駆的な実験を行うことができた. 電子スピン共鳴装置を用いて,照射後のポリエチレン内部に生成するラジカル数及び種類を測定した.フルエンス依存性について検討を行い,今後必要となる入射フルエンス及び照射時間等に関する重要な結果が得られた.これについては,国際会議ECAART11と日本原子力学会で報告した.. 導電性ポリマーをグラフト鎖としてポリエチレン中に導入することはまだ成功していない.
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度に設置した照射装置を用いてポリエチレン試料を照射する.このときマイクロビームの形状を観測しながら照射を行う.イオンビームのフルエンス,フルエンス率はこの形状と,試料の移動速度を考慮し,グラフト重合率(グラフト鎖の導入数に対応する量)が大きくなるようにそれぞれ調整する.照射後,大気雰囲気に取り出してグラフト重合を行う.この操作を何回か行い,異なるグラフト鎖を導入する. グラフト重合を行う領域は非常に小さなものとなるので,十分に重合するには,上述の調整のほかに,モノマー溶液中に溶存している重合禁止剤を除去することを考えている.その方法は,重合禁止剤の除去剤を用いるか,真空蒸留装置を用いたモノマーの精製装置を用いてグラフト率が大きくなるようにする.いずれも先駆的な実験は行った.これらを用いると,これまでグラフト重合が困難であったEDOT等のグラフト重合反応が起こりにくかったモノマーに対する実験を有効に行うことができる. 最終的には,ポリエチレンに3次元的に導入されたグラフト鎖の特性を測定し,全体のまとめを行う予定である. 本研究費は薬品,ガラス器具,その他消耗品および関連図書の購入に使用する.また,昨年度投稿した論文の別刷り代金として支払う.
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次年度の研究費の使用計画 |
アクリル酸モノマーの入手が困難であったため. アクリル酸モノマーまたは別の有用なモノマーを購入する.
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