本研究課題では本学タンデム静電加速器を用いて,イオンビームグラフト重合法に関する以下の3つの項目に主眼を置いて研究を行った. 基板となる高密度ポリエチレンフィルムを高フルエンスで照射することで,グラフト重合されない領域が形成されることがわかった.高分子フィルム内部のラジカルを電子スピン共鳴装置で測定することで,この機構を解明した.この現象を応用することで,グラフト鎖導入の位置,特に深さを制御することができる. 本学加速器のマイクロイオンビームラインにターゲットをマイクロメートルオーダーで移動させることができる照射チェンバーの設置を行った.百マイクロメートル程度のイオンビームを用いてポリエチレン試料を移動させながら照射し,その後試料のグラフト重合を行った.百マイクロメータの太さの線領域にグラフト鎖が導入できた.このことから,イオンビームの照射位置を制御することによって,基板となる高分子シート内部の表面近傍に機能を持ったグラフト鎖をマイクロメートルオーダーで導入することが可能となった. イオンビームグラフト重合法によってポリエチレン内部にポリアクリル酸のグラフト鎖を導入した.そのグラフト鎖部分には絶縁体であり導電性は無いが,水を添加するとゲル状態となり,電流が流れるようになったことを抵抗値測定で確かめた.1 mm間隔の抵抗値は数MΩであった.導電性高分子材料であるEDOTのグラフト重合を試みた.導電性は乏しいものの,ポリエチレン表面にグラフト重合を行うことができた.また,ポリカーボネート試料を銅イオンビームで照射し,導電性を持った部分を形成し,1 mm間隔の抵抗値が数百kΩであることを確認した. 以上のことから,機能を持ったグラフト鎖を基板高分子シート内部の任意の場所に3次元的に導入し,例えば,電気的な素子を作成するために応用することが可能なことがわかった.
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