研究課題/領域番号 |
24561043
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
松元 達也 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90325514)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 熱流動 / 構造 / 安全評価 / 数値解析 |
研究概要 |
本研究は、過酷事故時の原子炉内で炉心溶融により溶融、固化したデブリが形成するデブリベッド内に混在する燃料の崩壊熱により冷却材が沸騰し、デブリの動的挙動を促し、ベッドの平坦化挙動を生じさせることを明らかにした研究の延長上にあり、さらに進展した過酷事象として、ベッド内の崩壊熱の熱除去性が損なわれ、燃料を含む固化物の再溶融が生じた場合を想定し、実施した。 これまでにベッド内の動的挙動を中心に定量的なデータと知見は得たが、崩壊熱除去性損失後のベッドでの再溶融挙動や炉容器底部構造の熱的損傷に進展した際のデータと知見を得るまでには至っていない。そこで、ベッド内での崩壊熱除去損失の事象を再現するために、デブリベッド内での燃料を含む固化物の再溶融を模擬する実験装置を製作し、ベッド内の過渡的挙動の画像データ、特に微視的領域での可視化データの取得を行った。 実験装置として、前・背面が内部を観察可能な幅400㎜×高さ500㎜の耐熱ガラス製、構造材をテフロン及びジュラコン製とする奥行き15㎜の矩形水槽を製作した。また、デブリベッド内の燃料を模擬する金属粒子を加熱するシステムとして、矩形水槽背面からの電磁誘導加熱システムを構築した。計測システムとして、ハイスピードカメラを用いた。測定結果については、ベッド内の金属粒子の加熱による沸騰挙動及びそれに伴うベッド内での流動挙動を観察することができた。 従って、本研究成果は、これまでの原子炉過酷故事時の熱流動現象解明のための研究資源に新たなデータや知見を提供できるものと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度研究については、実験装置の製作及び電磁加熱による試験的実験まで達成することができた。しかし、電磁加熱による加熱手法の最適化と熱流束の不均一分布及び加熱量を補うために粒子ベッドへの直流電流加熱の手法を導入し、より均一で高い熱流束の条件下での試験を行うようにするなどの改善項目を見出した。 また、ハイスピードカメラにより測定した画像データの処理に関しては、画像解析ソフトウェアの適用により概ね良好な解析結果を得たが、より鮮明な画像データを取得するための照明技術の改善が必要であり、課題と考える。 さらに、粒子ベッド内でのデブリ(固体)、冷却材(液体)、冷却材蒸気(気体)による多相流熱流動挙動と熱除去特性に関する機構論的モデルの構築については、各相間の相互作用に関する過去の研究資料の収集を行い、固体-液体間の相互作用に関する基本モデルについての構築を試み、解析システムの運用の準備として、ベースとなるオープンソースコードのOpenFOAMの導入と基本的性能の評価を終了しており、次年度も継続的に開発を行う。 以上のように実験装置の製作と多相流熱流動挙動と熱除去特性に関する機構論的モデルの基本的モデルの構築及び基本解析ツールの準備には至ったが、実験システムの改善点、計測技術の精度向上の必要性、研究成果の外部発表に至らなかった点などがあるために上記の評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
次年度では、平成24年度に購入した高速度ビデオによる撮影システムを用いた粒子ベッド内での多相流流動挙動の画像データの取得と画像解析による流動解析に加え、粒子ベッドにおける熱的挙動を温度分布として取得するための多数の熱電対による多点温度計測システムを購入し、取得する温度データを画像データと併用して両者間の関連性を検証する。 実験では、前年度採用した電磁加熱装置に加えて、熱負荷を上げるために直流電流加熱による補助的な加熱方法も導入する。電磁加熱では、局所的に加熱領域の偏りが見られ、また加熱量にも限界が生じるので、直流電流加熱による粒子ベッド内の固体粒子及び圧力容器下部を模擬する金属材料を補助的に加熱する仕組みを導入する。 また、デブリベッド内でのデブリ(固体)、冷却材(液体)、冷却材蒸気(気体)による多相流熱流動挙動と熱除去特性に関する機構論的モデルの構築を進め、これらの挙動を予測するための数値プログラムの作成を可視化による画像データおよび多点計測による温度分布データの多重の取得データによる検証を通じて行う。 数値解析プログラムについては、引き続き、既存のオープンソースコードであるOpenFOAMをベースに開発を進める。OpenFOAMでは、粒子の挙動を解析する際に必要な離散要素法(Discrete Element Method)による解析モジュールと冷却材の流動および炉容器構造への熱伝達や力学的を非構造格子モデルにより扱うことのできる有限体積法(Finite Volume Method)による解析モジュールを有しており、これらに構築する各相間の作用モデルを組み込み形で解析ツールとしての完成を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は直接経費(1,100千円)となっており、次年度の研究推進方策において述べたように高度で多点に及ぶ熱的定量データの取得のために温度計測システム(350千円)を購入し、本システムを制御するためのパソコン一式(150千円)を購入する。 温度計測に使用する熱電対、デブリの模擬物質であるガラスビーズ、ステンレスビーズ、底部構造材を模擬するための構造材料としての低融点金属は、実験の実施に伴い消耗するので、消耗した物品の追加購入のために費用(200千円)を使用する。さらに、国内外での成果発表のための旅費(300千円)及び学術論文誌への論文投稿料(100千円)に使用する。
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