研究課題/領域番号 |
24561044
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研究機関 | 独立行政法人日本原子力研究開発機構 |
研究代表者 |
鈴土 知明 独立行政法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究主幹 (60414538)
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研究分担者 |
山口 正剛 独立行政法人日本原子力研究開発機構, システム計算科学センター, 研究主幹 (50360417)
都留 智仁 独立行政法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力基礎工学研究センター, 研究員 (80455295)
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キーワード | 転位バイアス因子 / 照射スウェリング / 自己格子間原子 / タングステン |
研究概要 |
理論解析から推定される転位バイアス因子が実験から得られる同値に比較して過大評価されるが、「自己格子間原子(SIA)が刃状転位近傍でそのすべり面に平行なクラウディオンに変化して転位からの捕獲から逃れることを考慮すればその差は解消できるのではないか」という仮説をたてて研究を開始した。 昨年度までに、転位近傍でSIA移動を追跡するコードを作成し、上記のような仮説が成立するかどうかの試験を行った。その結果、予想されたようなクラウディオンは発生したが、転位からの捕獲から逃れる効果は非常に小さいことがわかった。これは、クラウディオンが転位バイアス因子を減少させる効果はないという意味であり、もともとの仮説が否定されたことになった。結果は昨年度国際会議で発表した。 今年度は、パラメータを変えながら昨年度の結果を検証の行い、仮説が成立しないことを再確認した。また、スウェーデンの研究グループが同じ疑問から研究を行った結果が発表され、同様にSIAの吸収モデルを精密化しても問題が解決しないという結果を得られた。もともと転位バイアス因子は照射スウェリングを説明するために導入された概念であり、実験から得られる転位バイアス因子は、スウェリングの量から推定されたものである。よって今回の結果は、スウェリングの原因を転位バイアス因子に埋め込んだ照射材料理論そのもののが問題であることを示唆している。 このような状況から、残りの期間は照射スウェリング理論の再構築に向けた第一歩として合金元素の種類や量によってスウェリングの量が変化する実験結果を説明するための理論づくりを行うこととし、核融合材料の候補材であるタングステンを研究対象に選び、第一原理計算によってスウェリング変化を説明する結果を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
転位バイアス因子について自ら立てた仮説が正しくなかったということはある意味では失敗だったが、それによってこれまで自分たちを含めて多くの研究者が正しいことを前提としてきた照射材料のスウェリングに関する理論の問題点が明らかになったことは大きな意義がある。ただし、この問題はすぐに解決できるような単純なものでないと考えられる。過去の照射スウェリングに関する実験結果を見直し理論構築の過程でどこに瑕疵があったのかを見直すところから再出発する必要ある。その一環として、核融合材料候補材のタングステンにおいて合金の種類や量によってスウェリング率が変化する実験結果を検討することを今年度中に開始でき、最初の結果を得たので、おおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
転位バイアスについての仮説についてはすでに正しくないことの確証は得られたと考える。よって今後(最終年度)は、今年度開始した合金における溶質元素がスウェリング対してどのような影響を及ぼすのかについて実験と第一原理計算を比較する研究をさらに進め、最終結果を論文としてまとめる。また、この第一原理計算結果を元に、スウェリング変化を定量的に再現するするためのキネティックモンテカルロコードの作成を開始する。対象とする合金は核融合材料の候補材であるタングステン合金とし、溶質元素は照射による核変換で生成されるレニウムとオスミウムとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は最終年度であり、国内学会や国際会議に積極的に参加し、本事業のこれまでの成果を発表していく。また論文投稿費や別刷り費も見込んでいる。 今年度の成果を国内および国際会議で発表するための旅費および参加に使用する。国内の学会は金属学会(名古屋3日間x1人)、原子力学会(京都3日間x1人)を予定している。また国際会議は米国材料学会参加(米国出張1週間x1人)とNumat参加(米国出張1週間x1人)を予定している。
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